掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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二十歳で彼とつきあい始めた。6月の花嫁に憧れて、婚姻届に互いの姓を記入して、照れながら笑いあった。実際に提出したのは5年後だ。忙しい日々だけど、幸せはずっと続くと思ってた。あの日から10年目の6月が巡ってくる。私と彼はもう一度、今度は同じ姓を書いている。サヨナラのための、緑の紙に。

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一晩泣いて心に決めた。彼に重荷は背負わせない。ずっと彼に惹かれてる、クラスのあの子に後を託そう。高校の卒業式、2年続いた彼と別れた。彼女の想いも匂わせた。大好きだから幸せに。多分、私はもう外に出られない。先日、思わぬ難病を宣告された。余命5年。ね、お葬式には必ず2人で来るんだよ。

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5年ぶりに元カノの顔を見る。高校時代と変わらない。「いいよ、今日は見つめて。私にとっても旧友だもん」。今カノが涙ぐむ。「あの子、君を好きみたい」。卒業式、理由も言わず、元カノから別れを告げられた。直後から闘病してたと、僕らは昨夜知らされた。優しかった元カノが、棺の中で眠っている。

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高校の意中の彼女とつきあえた。「私にとっても友だちだから、大事にね」。取り持ってくれた幼なじみが笑ってる。昔から強く優しく、姉のように感じてた。「じゃ私、一人で帰るよ」。幼なじみが僕の名前を姓で呼ぶ。その響きが想像以上に胸に応えた。淡く長い恋をしてたと、終わりになって僕は気づく。

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高校時代、恋敵に競り勝った。大学を卒業後、彼女と俺は結ばれる。出会って10年。忘れかけてた感情を思い出す。愛おし気に抱いた男から、彼女が胸を吸われてる。「嫉妬? この先ずっとライバルだもんね」。挑むように伸びた指を、ぎゅっと握る。お前も大切だけど負けないぞ。俺は今日、パパになった。

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高校時代の彼への想いが蘇る。これ以上、誰かを愛せないと感じてた。あれから10年。それが間違いだったと気づかされる。抱き締めた男の子が愛おしい。胸をはだけたままでも恥ずかしくない。「嫉妬しそう。俺も変わらず好きでいて」。彼が微笑む。3年前に結ばれた。了解です。私は今日、ママになった。

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産休の教師に代わり、臨時教諭に任用された。着任日、高3の教室で青ざめる。君、昨夜のナンパで、大学生と言ってたよね? 冷静を装って、美術準備室に呼び出した。嘘つきは幸せになれないよ。「先生も同じでしょ」。……確かに女子大生と偽った。「でも幸せにはなれますよ。待って下さい、卒業まで」

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「美術準備室に来るように」。着任初日の若い教師に睨まれる。口うるさい担任が産休で、ホッとしたのも束の間だった。代わりの教師も手強いじゃんか。授業中、釈明を考える。すいません、大学生と偽りましたが高3でした。……でもさ、そっちも昨夜のナンパで嘘ついたよね。教師じゃなく女子大生って。

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我儘な3歳の一人娘に、妻が手を焼いている。代わりに僕があやしてやると、すぐにうとうとし始めた。「凄いね、あなた」。7年の交際中、君に散々振り回されて、鍛えられた。「……私、よく振られなかったね」。それ以上の「報酬」を君は毎回くれたから。首を捻った妻の隣で娘が囁く。「大好き、パパ」

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「これ食べられない。遊びたい。もう眠い」。3歳の一人娘が我儘だ。ヘトヘトの私に代わり、年上の夫が笑顔でいなしてる。凄いね、あなた。「散々鍛えられたからね」。何言ってんの。7年つきあいお互いに初婚じゃない。「よく似てる」。うん、娘はあなたに瓜二つだね。「性格は独身時代の君そっくり」

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