掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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「明日夜の便で帰る」。夫からLINEが届く。3年ぶりの単身赴任解消だ。半年前、驚かせようと内緒で任地を訪れて、夫の不倫に気づいてしまう。何も言わずに帰京して、私は準備を進めてきた。気をつけてね。諸手続きはお早めに。返信し、子どもを連れて家具のない部屋を出る。卓上に離婚届を一枚置いて。

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2025-11-13

ママがずっと落ち込んでる。そろそろ元気を出さなくちゃ。来月生まれる弟だって、きっと笑顔を好きになる。ママが弟を授かって、僕はむしろホッとした。忘れられるとは感じてないよ。ごめんね、年長だった3年前、その手を振りほどき、車道に飛び出して。ママとパパと弟を、忘れず天から見守ってるよ。

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勉強も運動もできる高校の人気者に片想い。同じ大学を受けたけど、当然私は不合格。「卒業だぜ。もう諦めろ」。仲のいい同級の男の子に諭される。うん、そうする。あんたはずっと優しいね。浪人するのもそのせいだろうね。今度は私がお返しするよ。滑り止めは受けないから、通う予備校教えてくれない?

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大学の2次募集も全滅した。仲良しのクラスの女子はイケメンに片想い。高校は散々だった。「隣の席空いてる?」。予備校のガイダンス。見ると彼女が笑ってる。え、お前も浪人するのかよ? 「高望みしすぎちゃった」。馬鹿だな。手頃なところで手を打ちゃいいのに。「うん、よろしく。勉強も、恋愛も」

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車での通勤中、スマホで雑談を配信するのが日課になった。匿名の彼は今朝も聴いてくれ、「遅刻しそう」とチャットで返事をしてくれた。いいなこの人。それに引き替え職場の同期は陰キャ男子で憂鬱だ。まともに会話も成り立たない。「すいません」。彼が上司に詫びている。始業時刻、10分も過ぎてるよ。

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今朝も車で通勤中、スマホから可愛い声がする。匿名の彼女の生配信だ。信号で停車中、おはようとハンドルネームで挨拶を打つ。出社する頃、配信も終わりになる。今日も会社は憂鬱だ。隣は同期の陰キャ女子。少しはあの子を見習えよ。「誰それ?」。初めてまともに声を聴く。覚えがあるのはなぜだろう。

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隣にいるのが当たり前だと思ってた。幼なじみが東京の大学に進学する。一晩泣いて、今さら彼への想いに気づく。上京を駅で見送り、それでも素直になれず、世話を焼く。ハンカチ持った? 忘れ物ないよね? 「大事なことを忘れてた」。彼が私をじっと見つめる。「言い忘れてた。お前のことを大好きだ」

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「忘れ物ない?」。上京の日、最寄り駅で幼なじみに見送られる。大学入学案内もアパートの契約書も鞄に入れた。「成長したじゃん。昔は大事な物ばかり、忘れてたのに」。本当に忘れちゃいけないものを、卒業間際に気がついた。微笑む彼女に真っすぐ向き合う。言い忘れてた。お前のことを大好きだって。

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書店で元彼に鉢合わせる。半年前に喧嘩して、口をきかずに卒業した。「あばよ。俺は都会の大学で、新恋人を見つけるぜ」。それでツルゲーネフの「初恋」なんて買ったんだ。同じ本、進学先の学長がHPで薦めてた。私も読んで、未練を断ち切り新たな恋を探します。ところであんた、合格したのどこだっけ?

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