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「女子も外見より中身だよ」と彼が言う。そうかなあ、と私は思う。もっと綺麗に生まれていたら、躊躇も屈折もなかったのになと感じてる。高校の教室に、美しい同級生が入ってきた。「あ、またな」。私との会話を打ち切って、彼が彼女と囁きあってる。やっぱり私はためらうし、あなたが嫌いで大好きだ。
「ママは博徒なんだね」。16歳の一人娘が笑ってる。ううん、勝てない勝負はやらないよ。「大学の頃から25年も信じてたんだ、才能を」。だからあなたを産んだし、仕事も続けた。壇上に、緊張した夫が立っている。やっと夢を叶えたね。でも、ここからが勝負だよ。遅咲きの新人の、今日は文学賞の授賞式。
小説公募でまた選に漏れた。もう正規職を探そうか。「夢追わないのはあなたじゃないよ。大丈夫。私も復職するから」と彼女が笑う。ごめんな。30歳の今までに、何者にもなれなかった。「作家にはなれてないね」。抱いた乳児に目を細め、彼女はそっと囁いた。「でも、私の夫と素敵なパパにはなれました」
お祖父ちゃんが喫茶店を畳む。高校帰りに手伝って、私はケーキを焼いていた。「残念です」と常連の彼が言う。近くの大学2年生。残念なのは好きなケーキを食べられなくなるからですか……? 最後の日、勇気を奮って彼に言う。私だって残念です。今度は客としてでなく、ケーキを食べてもらえませんか?
彼の家で映画を見る。ヒロインが片想いに苦しむ恋愛モノだ。思い出して涙ぐむ。別々の中学だった頃、街で彼に一目ぼれした。高校で偶然再会し、勇気を奮い告白する。あなたは覚えてないだろうけど、あの時、私は独り、劇場で見ていたんだ。この作品と、隣の席で可愛い彼女と手を繋ぐ、あなたのことを。
彼女と家で映画を見る。なぜ題名が気になってたのか、迂闊な僕は途中で気づく。高校で彼女と出会う前、中学時代に好きだった子と劇場で見た作品だ。後ろめたくて、彼女の顔を盗み見る。画面を見つめ、ヒロインの悲恋に泣いていた。優しいこの子を大事にしよう。素知らぬふりで、彼女の小さな手を握る。
気づくと特別な存在になっていた。高校まで一緒の男友達。とはいえ今さら告白するのも照れ臭い。気づけとチョコに念を込め、義理を装いバレンタインに手渡した。「いつもより少し高級じゃん。さてはホワイトデーの倍返しを狙っているな」。鈍い彼に笑って呟く。お返しは、あんたの気持ちでいいからね。
「10日後が楽しみだ」と彼女が笑う。中高一緒の腐れ縁。はいはい、ホワイトデーな。確かにチョコはもらったけれど、義理じゃんか。お返したくさん受け取ったら、太るだけだと思うけど。「平気だよ」。油断してるとスリムな体形失うぞ。「あんたこそ、油断してると失うよ。チョコあげたの、一人だもん」
「あんた女性経験あったんだ」。交際して最初の夜、幼なじみに驚かれる。20歳の今まで家族ぐるみで過ごしてきた。お前こそ、てっきり未経験かと思ってたよ。「私は絶対秘密だけれど、あんたの最初は誰なのよ?」。言えねえよ。高2の時、憧れていたお前の姉貴を拝み倒し、こっそり一泊旅行したなんて。
20歳で幼なじみと交際した。初めてを終えた後、「お前経験済みだったんだ」と彼が驚く。それはこっちの台詞だよ。あんたに女性経験あるとはね。「家族ぐるみでつきあってたのに気づかなかった。俺は秘密だけど、お前の最初は?」。絶対言わない。高2の時、あんたの兄貴と内緒で半年つきあってたこと。