掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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高校の同級生と交際半年。奥手な彼はキスまでしか求めてこない。「お姉ちゃん、今日はママもお出かけだよ」。小5のませた妹が笑ってる。でもうちに招く口実どうしよう。「彼、フィギュア好きなんだよね? 丁度いいじゃん」。なるほど、その手で誘ってみるか。「女の子の日」だから雛人形見に来ない?

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大学を出た先輩が、弥生という名の同級生とつきあい始めた。3月の誕生日、祝われた彼女が泣き笑いの顔をしてる。月の異名で思い出すこと、伝わってるよ。初恋相手の先輩が気がかりで、16歳での事故死後も、私はずっと宙ぶらりんだ。今年の夏は彼女に笑顔でいてあげて。見届けたら葉月は天に還ります。

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大学を出て告白した。ある夜、彼が寝言で私の友人の名を呟く。彼女からは同窓会の参加者を尋ねるLINEが届いてた。素知らぬふりで、彼も来るよと返信する。「じゃ行こうかな」。在学中、2人は密かに交際してると噂があった。あれは本当でお互いまだ未練があるんだね。実は嘘。彼は仕事で出席できない。

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また幼なじみが告られた。高校入学以来、何人目だろう。僕はその都度冷や汗かく。いっそ誰かに落ちてくれれば、諦めもつくのかな……。あのさ、あれほど想われ、好みは本当にいないのか? 「いないねえ」。よほど特殊な性癖なんだな。「特殊だよ。そばにいるけど鈍くって、チキンな男子に一途だもん」

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「よくモテるな」。高校の帰り道、幼なじみに嫌味を言われる。また告られてるのを見られてしまった。あのね、私の体は一つなの。大勢に想われたって意味ないよ。「けっ、強者の驕りだ。罪作りだから誰かとつきあえ」。罪人はあんただよ。私がモテるとしたら、鈍い誰かが彼女にしてくれないせいだから。

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結婚前提でつきあいたい――会社の上司に告白された。「いいんじゃない?」と彼が笑う。互いに「体だけ」と言い合って、大学以来もう5年。就活に失敗し、彼は今でもバイト暮らしだ。支えてでも一緒にいたい。気づくとそれほど愛してたのに、彼の温度は違うんだね。涙を拭い、上司に頷こうと心に決める。

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志望校に合格した。卒業を間近に控えた日曜日、久しぶりに高2の彼女とデートする。受験でなかなか会えず悪かった。けれど一生お前といたいから、上を目指して頑張った。「私も卒業しようかな」。彼女が俯きポツリと呟く。いや、お前はまだ1年先だろう? 「……半年も寂しい思いをさせた、先輩から」

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泣き疲れ、眠った娘をおんぶする。病死した妻の葬儀の帰り道。思春期の娘には、最近さらに嫌われている。「そう? 似た者同士に見えるけど」。妻の笑顔が蘇る。自分に厳しい意地っ張り。いや、俺は娘みたいに強くない。現に今も泣いている。うっかり起こして気づかれぬよう、重たくなった娘を支える。

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目覚めると、厳しい父におぶわれていた。母の葬儀で泣き疲れ、斎場で寝てしまった。闘病中も多忙な父を、さらに嫌いになっていた。中2だし、自分で歩ける――。言いかけて、父の嗚咽に気づく。ずるいよ。そんな脆さにグッとくるのは、ママだけじゃない。帰り道、案外狭い父の背で、欠伸を装い涙を流す。

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敵陣から砲弾が飛んでくる。死ぬんだな、と僕は思う。半年前まで留学していた日本のことを思い出す。恋に落ちた大学生の彼女とは、片言の日本語でデートした。徴兵で召還され、故国のために戦ったことに悔いはない。ただ一つ、彼女に嘘をついたと後悔する。平和はいいな。ごめん、再会の約束守れない。

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