掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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教室と家に居場所がなく、高3で理科準備室に入り浸る。七つ上の先生を好きになり、最後まで拒まれた。当時は「お前」と呼んだのに、今は私を「先生」呼びだ。それは戸惑い? 警戒心? 2人きりの準備室の鍵を閉める。言いましたよね、諦めが悪いって。先生いろいろ教えて下さい。2週間の教育実習。

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「私、口硬いですよ」。教え子が悪戯っぽく囁いた。難関大に合格し、また理科準備室に遊びに来た。「諦めず、美少女が誘惑してるのに。卒業式で泣きますよ」。自分で言うなと頭を小突き、追い返す。7歳差だぞ、からかうな。それから、卒業式で涙ぐむのはお前じゃない。生徒に恋してしまった僕の方だ。

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母は仕事で忙しく、父子家庭みたいな家だった。大学を卒業後、僕はすぐに結婚する。妻もキャリア志向で働き詰め。子もいない。また僕は独りきりだ。「私は課長に父性を感じ好きですよ」。高卒の新人女子が微笑んだ。渇望が倫理観をねじ伏せる。求めてたのは家族じゃない。母性に受容されることだった。

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父には外に女がいた。最低だった。主婦の母は見て見ぬふりだ。高校を卒業後、経済的に自立したくて就職し、家を出る。お給料は悪くない。「何考えてるの?」。布団から起き上がり、同じ会社の彼が囁く。お金以外に求めていたもの。「何だろう」。年上で父みたいな彼は微笑み、指輪をはめて帰っていく。

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若い頃、一流誌の写真を手掛け、家に帰らず妻と娘に捨てられた。絶望し、45歳で校務員の職を得る。いじめられた小5の少女にカメラを教えた。娘を重ねた一方的な贖罪だ。15年後、末期の病の病床で、記事を読む。彼女が写真賞を得たらしい。「恩師に感謝してます」。よかったな。いい師匠につけたんだ。

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いじめられ、保健室にもいられなかった。「学びは教科だけじゃないよ」。小学校の一室で、彼がカメラを教えてくれる。独学し続け、25歳で賞を得た。伝えようと恩師を探す。末期の病で入院していた。「久しぶり。立派になったね。頼みがある」。不義理を悔やみ、居場所をくれた校務員さんの遺影を撮る。

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彼がまた失恋した。中高一緒の同級生。「不器用なんだ。お前みたいな経験豊富なギャルとは違う」と凹んでる。私は胸を突き出した。慰めで、そっと1回触っていいよ、と笑ってみせる。「……慣れてるな。でもこういうの、好きな男とやれよ」。実はキスすら未経験。不器用に、だから勇気を奮ってるんだ。

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「また失恋? 女見る目を磨きなよ」と嘲笑われる。中高一緒のギャル系女子。俺は器用じゃねえんだよ。「慰めで、胸触らせてあげようか?」。……お前にはそんなの何でもねえんだろうな。「1回きり、そっとだよ」。経験豊富で誘っておいて、震えてるじゃんか。「……だからあんたは見る目がないんだ」

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足を挫いた私の肩を、彼が抱える。いいよ、恥ずかしいって、陸上部のみんなが見てる。「怪我人は黙ってろ」。ピシャリと言って、高校の保健室へと運んでくれた。「怪我の功名? 何だそれ」。10年後、新郎が私の言葉に苦笑する。だって、あれからだよね、意識しあったの。「いや俺は、入学の直後から」

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幸せにする、と挙式で誓った。娘も授かり、遮二無二働き、過労で倒れる。「5年ぶりに私が仕事に復帰するよ」と主婦の妻が微笑んだ。育児と家事は僕が受け持つ。大変だけど意外に楽しい。妻も生き生き働いてる。傲慢だったと今さら恥じる。幸福は僕が授けるものじゃない。家族で一緒に紡ぐものなのだ。

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