掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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江の島が見えてきた。1年前のGWを思い出す。大学の同級生の彼がいた。お互い最初の交際だった。「何でも本音で話し合おう」と約束し、実践した。小さな嫉妬も口にして、やがて2人に溝ができた。今ならわかる。必要な嘘もあるのだと。「江の島初めて?」。並んで歩く今カレに、うん、と私は微笑んだ。

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ツテを辿って彼に会う。女子高の親友が、中学時代に一番心を許した相手だ。「あの子が惚れるの同性だぜ」。やっぱりそうか。彼女の好意を感じてる。私はすくんで動けない。力を貸すと彼が言う。親友と程よい距離を保つため、交際を偽装すると言ってくれた。私も百合だ。それで中学時代にいじめられた。

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女子高の親友に彼ができた。私の中学時代の同級生だ。「やっぱ知り合いか。元カレとか?」。ないない。でもいい人だよ。他人の気持ちがよくわかる。親友は「だよね」と頷いた。私は胸が痛くなる。実は昔、告られた。ハグされて、身を縮こまらせた私を見抜いた。「お前が恋する対象は、同性だよな」と。

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「硬いよ。笑顔」。カメラマンに促される。高校帰り、スカウトされてモデルになった。まだ撮影の要領がわからない。「デートをイメージして」。これまで誰とも交際してない。しばし考え笑顔を作る。「いいね。素敵な彼氏がいるんだね」。幼なじみは雑誌を見るかな、伝わるかな。妄想の私の彼氏が誰か。

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17歳の幼なじみがモデルになった。青年誌のグラビアで、水着姿を披露してる。あのさ、俺は何とも思わねえけど、読者の視線わかんねえか? みんな水着の下を妄想してるぞ。「ファンをエロいあんたと一緒にしないで」。馬鹿め。俺以外の男はみんなそうだ。「……ちょっと見る?」。……見せてくれるの?

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妹の喪が明けた。独身で35歳。車に跳ねられ即死だった。3年前、病気の僕に肝臓の一部を譲ってくれた。生体移植は成功し、日常を取り戻す。「回復を願った妹さんの供養にもなるよ」。妻が僕に子をせがむ。そうかもしれない。営むが授からず、僕は体の中から声を聞く。「私以外の愛する血縁、許さない」

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病床で兄が涙を流してる。「結婚前の体を傷つけ、悪かった」。いいの。三つ下で、私はもう32歳。このまま死ぬまで独身だよ。「今度は俺が力になる」。だからいいって。生体肝移植は私の意志。奥さんは適合しなかったよね? 傷がなくても私は独りだ。やっと深く溶け合えた。密かに愛するお兄ちゃんと。

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できた、と告げると彼は驚き「……堕ろす?」と訊いた。私の恋愛漫画は今が旬だ。担当編集者として痛恨だろう。読者にも申し訳ない。でも彼との恋が漫画を生んだ。堕ろせば多分続きを描けない。今は宿った命を大事にしたい。漫画は辞めても取り戻せる。3人で幸せになろう。いつか続きを紡ぐためにも。

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激務で倒れ、パパが職を失った。漫画雑誌の編集者。私はまだ17歳だ。パパも未来も不安になる。「大丈夫。私が仕事を再開する」。ケント紙とペンを取り出しママが笑う。え、ずっと主婦だよね? 「出産後はね」。筆名と題名に驚いた。未完のままのヒット作。「あれ、ママが作家でパパが担当だったのよ」

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東京の大学に進学した。彼女は地元の四大だ。散々泣かれ、大丈夫、強くなろう、と励ました。ひと月し、彼女のLINEは激減した。サークルや買い物で日々充実しているらしい。僕は都会になじめない。「わかるよ、私も地方出身だから」。寂しげな同級女子に手を握られる。今さら気づく。僕の方が全然弱い。

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