掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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一人暮らしに憧れ、東京から地方大に進学した。電車もバスも日に十数本。「外出は時刻表を確かめてからね」。LINEで女子大生に笑われる。高校時代、SNSで知り合った。「私は地下鉄で迷子だよ」。彼女は逆に地方から上京してる。な、GWに会わないか? 列車以外に語り合うこと、お互い色々ありそうだ。

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田舎から上京し女子大に進学する。地下鉄は迷宮だ。スクランブル交差点にも眩暈がする。LINEでこぼすと「すぐ慣れる」と笑われた。高校時代、SNSで知り合った男の子。「それよりバスの整理券、どう取るの?」。もしや前から乗ろうとしてない? 言ったでしょ。東京育ちの君には、地方大学無理だって。

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恋愛ドラマの撮影現場で気遣われる。私はヒロイン、彼は恋人役だ。触れるようなキスをされ、視聴者に失礼だ、と私は怒る。「……そうだな。お互いプロだし、見透かされるな」。再撮で、私は舌をしのばせる。秘密でつきあい半年前に破局した。視聴者もプロ意識も口実だ。元カレをまだ私は諦められない。

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「中途半端は視聴者に失礼だよ」。競演の若手女優が僕を睨む。恋愛ドラマの撮影現場。ラブシーンで触れるようなキスをした。「お互いプロでしょ?」。再撮で、彼女は瞳を潤ませ艶めかしく口づける。俺は台詞が飛びそうだ。極秘でつきあい、半年前に破局した。まだ俺は、ただの競演相手になれていない。

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女子高に進学し、同級生に告られた。「ほかに好きな人いる?」と尋ねられ、幼なじみの男子を思う。中学時代、向けられた淡い好意が照れ臭く、私、異性に興味ない、と言ってしまった。女の子に抱きつかれ、心地いい。本当に私、いけるのかも……。回答は1日待って。彼の気持ちをもう一度、確かめたい。

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高校帰り、最寄り駅で幼なじみと鉢合わせた。お互いにこの春から高校生。「いやあモテる」と彼女が囁く。「もう同級生に告られちゃった」。高校デビューか。好きにしろ。「あれ、妬かないんだ?」。妬かねえよ。お前、そっちかも、と言ってただろ。「そうだっけ?」。女子高のブレザー姿の彼女が笑う。

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大きな事件は何も起きず、心理描写が続いてる。小説の投稿サイトの不人気作者がまた迷子だ。更新ごとに厳しい意見を書き込んだ。ついに「アカウントを削除しようか」と漏らしてる。せめて完結させて、と叱咤した。鬱陶しいのに気になるのはなぜだろう。いい年して何者かになりたがってるパパみたいだ。

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退勤後、妻子が眠る真夜中に、小説サイトに投稿してきた。何者かになりたかった。でも読まれず賞も取れない。もうアカウントを消そうかな……。「全然上達せずに諦めるんだ」。フォロワーに笑われる。そっか、連載だけは完結させなきゃな。鬱陶しくて辛口で、誰よりも読み続けてくれた、1人のために。

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「噂通りだ。なぜまだ満開なんだ」と彼が言う。山奥の花が散らない一本桜。案内し、車で連れてきてもらう。半月前に別れを告げられ、私は泣いて拒み続けた。「やっぱり別れよう」。背後から囁かれ、振り向きざまに隠し持ってた刃を突き刺す。下に屍体が埋まってるからだよ。ちなみにあなたで5体目だ。

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別れ話を諦めて、彼女を車でデートに誘う。「伝説の一本桜が見たい」。俺も噂で耳にした。少女趣味にうんざりするが、好機かも、と考える。誰もいない山の中。花の散らない桜が一本、立っている。「土が特別なんだろうね」と微笑む彼女の背後に立つ。特別になるのはこれからさ。樹の下に屍体が埋まる。

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