掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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春風が心地いいね、と私は囁く。海に臨んだ小高い丘。最初のデートはあの浜辺だった。今日で交際3年目。私と彼の記念日だ。去年は病気で大変だった。やっと最近、泣いてる時間が減った気がする。あなたはどう? そう尋ねても答えはない。また涙が込み上げそうで、病気に倒れた彼の墓前をあとにする。

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「大学受験頑張って」。後輩の健気さに胸が痛む。交際中だが、ここ1年はほとんど遊んでない。受かれば僕は上京だ。離れる前から会えない未来を疑似体験し、弱気になった。「年末の模試で私に追いついたんだよね?」。塾の同級女子が頬を染める。うん、デートもせずに猛勉強した。同じ大学行けそうだ。

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先輩、間近の受験頑張って。口にしながら自己嫌悪で泣きたくなる。ここ1年、恋人なのにほとんど遊んでもらえてない。目指してるのはこの田舎町から遠く離れた難関大だ。勉強が忙しいのはよくわかる。でも寂しくてたまらない。「受かればいいな」。同級男子が隣で囁く。「春まで待つ」と言ってくれた。

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7年前の大学時代、物語を書き始め、一度小さな賞を貰った。小説サイトに新作を投稿する。入賞同期の作品がまたPVを集めてた。文芸部の元カレを思い出す。創作論を拗らせ別れた。同期は彼と似た作風だ。あの人が正しかったのかな……。迷いを払い次作を練る。負けられない。筆名の同期にも元カレにも。

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深夜眠気で手が止まる。小説を書き始めて7年。小さな賞を貰ったきりだ。大学時代、同好の彼女と創作論で喧嘩した。やっぱり彼女が正しかったのかな……。明日も仕事とPCを落としかけ、SNSに気がついた。「新作公開」。作風が異なる入賞同期だ。PCに向き直る。筆名の同期にも元カノにも負けたくない。

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胸痛がして会社で倒れる。55歳で突然死か。報いだな、と俺は思う。家事も育児も愛する妻に丸投げだった。息子と娘が何を考えてるのかわからない。時代は変わった。でも会社は変わらなかった。夫として父として失格だ。役員の肩書なんて墓場まで持っていけない。滅私で働き死んでいく。俺には何もない。

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夫が55歳で突然死した。学生時代に恋に落ち、結婚後、彼は仕事一筋だった。大企業の役員にまでのぼった夫。対する私は主婦と妻以外に肩書がない。「喪主頑張ろう」「支えるね」。斎場で声をかけられ私は気づく。そうだ、誰にも誇れる肩書があった。優しい息子と娘に頷き「お母さん」として背を伸ばす。

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「あんな連立方程式、解けないよ~」。幼なじみの彼女が嘆く。高校の模試の自己採点。簡単だ。代入法で一発だろ。「そっか、YをXに変えるだけか」。俺たちの関係だって複雑に考えすぎだ。「何よそれ?」。その先は自分で考え答えを出せ。俺は回答済みだぜ。「幼なじみ」を何に変えればいいのかって。

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「作者の気持ちを選びなさいって、わかんねえよ」。高校の模試の後、自己採点で幼なじみがぼやいてる。簡単じゃん。赤ペンごと、私は彼の右手を握り、一文を丸で囲んでみせた。「あ、ここヒントか!」。そうだよ。ついでに私の気持ちも気づいてね。「何それ? ヒントは?」。……今あげたばかりです。

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また振られ、幼なじみが凹んでる。「キスが上手いとドン引きされた」。わはは。前々彼は手の握り方がエロすぎる、だったよな。「……その前は上目遣いが玄人級って」。元カレ全員ヘタレだな。で、4人前は? 「そいつが内緒の初恋相手」。……へぇ、どんなヤツ? 「うぶな私に全部教えたあなただよ」

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