掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
novelup.plus/my/profile

フォロー数:10920 フォロワー数:14711

感染症で高校の文化祭が中止になった。僕は実行委員長。収束を祈りつつ、後輩と秋まで準備を進めてきた。彼女が肩を震わせてる。泣くなよ。僕はもうすぐ卒業だけど、2年生にはまだ来年もあるじゃんか。僕を見上げた彼女の瞳が潤んでる。「……先輩がいない文化祭なんて、私には何の意味もありません」

35 295

小悪魔め。約束しといて退部かよ、と俺は毒づく。高校の陸上部の同級生が「半年で2秒タイムを縮めたら、胸触らせてあげる❤」と囁いた。「まあ無理か。君は自分に克てないし」。俺は必死で走り込んだが、0.1秒届かず期限がきた。「でも大会出られるね」。病床で彼女が笑う。明日乳がんの手術らしい。

36 299

友人宅に招かれた。赤子を連れて訪れる。彼女は女子高時代の元カノだった。周囲に言えず、別れた私は就職後、求婚してきた男性上司に頷いた。娘がむずかり、後ろを向いて乳を吸わせる。やっぱり同性は気持ちいい。視線を感じ、一瞬振り向き嫉妬する。招かれたもう一人の友人が、元カノの手を握ってる。

31 264

女子高時代の友だち2人を自宅に招く。1人は先日出産した。抱いた女児がむずかって「ちょっとごめん」と後ろを向く。肩越しに彼女を見つめる。2年前、結婚の知らせに驚いた。幼い娘に嫉妬する。ママは両方いけたんだね。白くたわわな膨らみを、無心に吸ってる。10代後半、それは私だけのものだった。

27 280

また彼女と目が合った。廊下から頬を染めて僕を見てる。多分同じ高校生。「恋人に去られたのが引き金で、彼女は心を病みました」と医師が教えてくれた。1年前に入院し、ほぼ回復したらしい。同じ轍を踏ませられない。先生、末期の僕は好意を告げず旅立ちます。死後、妄想か幻視だったと伝えて下さい。

46 311

2作目の恋愛小説を書き始めた。処女作は、寝る間も惜んで書けたのに、今度は序盤で筆が止まる。気の置けない女友達に相談すると「1作目はほとんどあなたの私小説だったからね」と笑われた。圧倒的な経験不足。仕方ないかとため息つくと、彼女は僕を見つめてこう言った。「私が協力してあげようか?」

30 252

「同じ高校生ぐらいの男の子? 元からいないですよ」と医師が言う。嘘だ。この病室で何度も見た。そのつど目があい微笑まれた。叫ぶ私を医師がなだめる。お互いに惹かれていると感じていた。ベッドに寝転び涙を流す。私は治っていなかったんだ……。1年前、小児病棟に運ばれた。激しい幻視と妄想で。

42 309

「転校生が可愛くて」。男運が悪いからって同性に走るなよ。「いじめで不登校になり、来たそうよ」。もしや、と僕は考える。去年片想いの子がいじめられた。臆病で庇えなかった。謝りたいけど行方が知れない。「息子のあんたと同い年。一緒に遊ぶ?」。定時制の女子高生でシングルマザーが僕に微笑む。

31 267

「また男に捨てられた」「虜にする技、教えてやるぜ」――。高校の同級男女が話してる。「あなたは見る目を磨いてね」「テクは訊け」と微笑まれた。乱暴だけど温かい。幼稚ないじめを受け続け、不登校の末、転校した。年上ばかりのこの場所を、私は居場所にできるかな。夜5時半、定時制の授業が始まる。

36 293

高校時代の元カノと5年ぶりに再会した。酔った弾みで一夜を過ごし、上手さに驚かされる。ともに初恋だった。妬かないと嘘をつき、拗らせて、手を握るだけで別れてしまった。あのあと随分経験したんだな。「君と同じで7人目」と笑われる。やっぱりな。僕も上手くなっただろ。初めてなのに見栄と嘘が。

42 318