(おどけて逃げ回るダ・ヴィンチちゃんは、あまりにいつも通りで。だからわたしは、ダ・ヴィンチちゃん……人造英霊グラン・カヴァッロにいつか来る『終わり』の話も、切り出せなくなっていた。焼き切れるような暑さの中、遠くに黒雲を臨みながら。今年の創立祭が、始まった)

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「ち─び─ン─チィィィィ────!? アタシの愛の巣になんてことしてくれてんのよぉぉぉぉ!?」
「んー、改良型圧縮格納術式の実地テスト、ついでに創立祭モードの模様替え?」
「事前に一言断りなさいよ!?」
「それじゃサプライズにならないじゃーん」

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かくして私は主に加え、主の主とそのご一家の乗馬となるに至った。
主の主の手綱さばきについては伸びしろありと評するに留めるが、すぐ無茶振りをしてくる主よりは格段にマシであろう。

私は妖精馬グリンガレット。
負担重量の軽減を心から喜ぶ、一頭の軍馬である。

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私の転属に異を唱える者もいた。
都市英霊テノチティトラン殿、リッカ殿の家政婦にして自称本籍地。
滔々と我々の危険性を列挙し、難色を示すが、リッカ殿から「リリの情操教育にもいいと思うんだ」とお口添えをいただき、事なきを得る。
我々に親しむ機会を持つ必要性を痛感。

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次いでお二人のご息女、リリ殿こと九紋竜エリザ殿にもご挨拶する。
子供英霊らしく天真爛漫だが、「きばとつげき」だの「じゅうりんせん」だの、やや語彙が戦闘的にすぎるきらいがある。
主も主で殲滅戦の大切さを語り始める始末。
リッカ殿も双方へのツッコミに余念がない。

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かくて私は、主の主たるリッカ殿のご家族に挨拶に行くことになった。
まずは、ほぼ伴侶であるところのエリザベート・バートリー。
トイレとか大丈夫なの、という問いに、主はおおざっぱに請け負った。
赤兎殿あたりにフォローを頼んでおくことにする。

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「よかった」
「何がいいんだよ。よかねえよハラペコ女」
「ハラペコじゃなくてハコベラ。みんながみんな、誰かのためを思ってしたことなら……それが掛け違ってへんてこになったのなら。改めてそれをほぐせば、きっと丸く収まるから」

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「言峰綺礼──!」
「昼食かね、バートリー繁縷六花。烹炊班スタッフの靴を撮るなら、それなりの準備をしておくことだ。ランチタイムの忙しさは君自身熟知しているだろう」
「ご忠告どうも。相変わらず最悪のタイミングで出るんだね、まるで測ってるみたいに」

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「ちょっと子ジカ! アタシの愛の巣が物理的に草生えて草も生えないんだけど!? あと、トリ子がシンデレラのアタシに向ける視線が! 怖い!」
『両方ともちょっとだけ我慢して。あと何組か撮影を済ませたら、部屋の片付けに行くから。リリも応援に行かせるよ』

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「綺麗だねぇ……立嘉ちゃんにも見せてあげたかった」
「なら、立嘉の分も作らないとね。それにしても……オベロンのやつはここになにをしにきたんだろう。アーキタイプ・アースは『いつものお祭りみたいなもの』と言っていたけれど……」

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「オベ、さん?」
「おや、リッカちゃん。変なところで会うね」
「まあね。オベさんも水浴び?」
「そんなとこ」
(ふーん……今のところは額面通りに受け取っていいのかな。厄介な人が乗り込んできたとは思うけど)

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「朝ごはん前のエスプレッソ、かな。アーチャーフォームはともかく、ギルガメッシュさんとも付き合い長いし」
「可愛げのない雑種よ。振りでも良いから『みゅーん、リッカ怖かったですぅ〜』くらい言えぬのか」
「言ったら言ったで機嫌悪くするでしょ?」

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「あんのバカ! 逆さ鱗と知って踏み抜いたわね!?」
「このことは監査室案件……ううん、司令官秘にしよう。マシュ、申請書お願い、説明にはわたしも行くから。──どうしてそんなことを言うの、エルキドゥさん」

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「だとしても。……ここのギルガメッシュさんを、あんまり困らせちゃダメだよ」
『先輩?』
「お別れは一度でいい。そのお別れを済ませた人の肩を掴んで振り向かせるのは、きっと、しちゃいけないことなんだ」

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(そっか……キングゥさんは、ティアマトさんから自立した存在だった。あの人も、ありようはともかく人類だった。わたしたち汎人類史と、歴史の王道の座を争ったライバルだったんだ)

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「なんだか、アースちゃんやアルクちゃんみたいなこと言うんだね」
「君という頭脳も同じことをしているさ。皮膚の上の微細な生命体にまで、いちいち注意を払えるかい?」
「……そっか。アルクちゃんやエルキドゥさんの視点だと、人はそういうふうに小さく見えるんだね」

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(エルキドゥさんの一言は、わたしを戸惑わせるのに十分だった。英雄。わたしはそういうものになることを望まれているのか。一人の力が全てを決するような大きな個。──わたしでなければ、あるいはマシュが。人理を救う者として、英霊の高みに昇るのか。思わず、寒気がした)

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「4月まで持ち越すホワイトデーってのも大概だったけど、片付いてみれば楽しかったわね?」
「そうだね。高杉さんもすっきりしたみたいだし。ところで、あの話聞いた?」
「ティアマトでしょ? ビースト経験者がアルターやるのはお約束だけど、何しに来るのかしら、あいつ」

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「──どこよココ!?」
「どこなんだろう……こんなに広いマイルームは初めてかも」
「ルームでもなんでもないじゃない。そもそもここでどうやって寝るの?」
「うーん、しばらくはキャンプかなぁ」

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(松蔭先生、お元気ですか。高杉さんは、当面非常勤英霊として移動仮設本部に残れることになりました。着任初日から飲めや歌えで、すっかり馴染んでいます。いつか。おばあちゃんになった後にでも。両手いっぱいのお土産話を持って、ご挨拶に伺います──)

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