最後の夏休み

あの日からきみは変わらず十七で
最後だなんて思わないまま
さよならを言ったあの日から

熱波の夏 涼しい夏
いったいいくつの夏が通り過ぎていったのだろう

ぼくの手に残っていたのはこの笑顔だけ

絵・甲斐千鶴 詩・知己 凛

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向日葵よりも、太陽よりも眩しくて。
その笑顔をまだ――もっと見ていたくて。
蝉時雨も漣もおさまって、夜空に咲いた花火も散って。
夏が終わりに近づいても、その笑顔をもっと――ずっと見ていたくて。
新しい季節が始まるように、キミとずっと――これからも居たいと、願った――。

絵・甲斐千鶴

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カンナ色の車で
飛ばしてきた
大好きな海は
昔と変わらない
波のひかり
午後3時

温かいオレンジティー
あなたの真似をして
作ったわ
冷たい風に
香りを乗せる
天国に届くかしら

手のひらには
一枚の写真
声を聞きたい
紅茶が冷めても
あなたは
まだ微笑んで
最後の夏休みにいる
絵・甲斐千鶴

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最後の夏休みに、2人で海に行ったことを君は覚えていますか。あの時気持ちを伝えていれば何か違ったのかも知れないと、今日は特に強く思います。あの日見たあなたの笑顔、日差しの暑さ、水の煌めき、海水の味、肌に張り付く制服の感触まで、すべてを鮮明に覚えています。

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はまなすの花が強い海風に耐えるように
僕はその笑顔に耐えた
喉の乾きが激しくて声は掠れていた

君はどうして

僕の中にはこんなにも暗闇がある
柔らかな白さを奪いたいとさえ
砂浜の肌触りは熱く擽るようだ

 絵·甲斐千鶴

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膝ひたす波の名残や夏休み

絵・甲斐千鶴

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フラスコに入れていたfreshを外に出したら若い娘さんになってはじけだした。

「驚いたなあ」
「驚くのはこっちのほうよ。freshを閉じ込めてどうするつもりだったの?」

その年のfreshは、その夏の内にはじけさせるのが正しいfreshの使い方だそうだ。

 絵・甲斐千鶴

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こっちよ こっち
波と誘う君
膝小僧が見える
僕は見たくなんかないよ
遠くからだけでいいのに

このまま海に入らないと
終わってしまうのよ
最後の夏休みなのに

僕は勇気を出して手を伸ばした
だけど海には入れなかった
ポスターの中の君は
こっちを見て笑っていた

 絵・甲斐千鶴

1 38

【8/10まで】楽詩ツイート企画

「最後の夏休み」というタイトルで、こちらのイラストにあわせて文芸創作し、タグ をつけてツイートしてください。表現形式や長さは自由、何作品ツイートいただいても構いません。イラスト添付の際は「絵・甲斐千鶴」と入れてください。

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甲斐千鶴
イラストレーター
美人画・キャラクターイラストなど幅広く描きます。
美人画では日本人らしい表現でアジアを意識したどことなく幽玄な女性画を目指しています。
https://t.co/Zp4Pe79oVp

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甲斐千鶴
イラストレーター
美人画・キャラクターイラストなど幅広く描きます。
美人画では日本人らしい表現でアジアを意識したどことなく幽玄な女性画を目指しています。
https://t.co/Zp4Pe79oVp

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楽詩12(2018 Winter)

【イラスト】
甲斐千鶴(表紙)
mg3

【詩歌・エッセイ】
《ゲスト》
雨虎俊寛(短歌)
故意の海女に(ショートストーリー)
紅育(自由詩)#楽詩

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①冬日②ねいろ

ねえ 絹吐く虫に捩られた
日本音階の物悲しさに
したたかに酔っているの
糸はしが空気の湿りに屹立して
君の揺れ動く鼓動を確かに
読み込んだから
楼蘭を出で砂漠を渡り
今はない都市の名を
柔らかな光の中に弾き返す

絵:甲斐千鶴 

4 36

絵:甲斐千鶴
②折句「ねいろ」
寝ては覚め夢と現とあくがれて君なき朝に現と知れる
今はただ藤の傍生ゆ双葉には深山の雪よ降るなと願う
炉も星も光る君には遠く在りふみこぬ道に琵琶のみを抱く

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朗朗と季節は詠えても、この想いはどうにも声になりません。池に降る淡雪のように吐息の中に沈んでしまうのです。かじかむ指を言い訳にしてまだ弾かずにいますから、どうかその言葉を、あなたから聞かせてはくれませんか。

絵:甲斐千鶴 (2/2)

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旅立ちの日に
あの人が残していった琵琶
この手でギュッと
抱きしめてみる

ほのかに感じる暖かさは
木のぬくもりでしょうか
陽のぬくもりでしょうか
あの人のぬくもりでしょうか

いつか戻ったその時に
無機質な音色が響かぬ様
この愛で暖め続けましょう

①冬日

絵:甲斐千鶴 

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「冬日」

貴方を想い、数多の夜を越え
貴方を想い、数多のため息をつき
貴方を想い、枕を濡らし
貴方を想い、貴方に聞かせた琵琶を抱く

私の想いを飲みこんだ琵琶に
今朝も白い息と光があたり
貴方に向けて奏でる音曲

絵:甲斐千鶴 

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寝覚めれば
今は水底 四つの緒の
﨟たく薫る紫のしらべ

②折句「ねいろ」
絵:甲斐千鶴

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なにもわからなくても
自分の感性で言葉をくれる
あなたの

最後の言葉を
リフレインしているうちに
冬のひかりに
溶け込んでいく

絵:甲斐千鶴
①冬日

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御簾から差し込む弓張月へと
ひとつ 調べを載せていきます

遠く 遠い かの場所へ
私の指で掻き鳴らす

祈りは
今宵 届かずとも

光は
今宵 消え失せようとも

星を繋いで
この音は響く

たとえ
この世は明けぬとも

遠く 遠い 貴方の許へ

【書き直し再掲】①「冬日」
絵:甲斐千鶴

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