「中山くんどうした? 機嫌良さそうじゃないか?」中山五則が珍しく鼻唄交じりに運転をしているので渋沢一二三は聞いた。「あっすみません。わかっちゃいましたか?」「わかったも何もなぁ」「実はですね。五円玉が増えたんですよ」

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「五円玉のひとだぁ」中山五則が車から出てくると今野円は歓声をあげた。牧田スガもその横で笑いを堪えている。「あれれぇ今日はご縁がないよぉ」いつも五円玉つけてる訳じゃないんだけどなと五則は思いながらも額に五円玉をつけた。

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中山五則は額から五円玉が落ちると同時にそれを蹴り上げ、「これは大変御利益のある仏ビームです。皆さんおめでとうございます」と言ってキャッチした。以来、五則は妖怪研究会で五円玉の人と呼ばれている。名前は覚えられていない。

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空気が冷えきったと言う表現が正鵠を射た瞬間だった。若いスーツ姿の男が額に五円玉をつけて仏像のようなポーズでゆっくり歩いている。皆唖然としている横で渋沢一二三だけが腹を抱えて笑っている。「中山くん、それ何度見ても最高」

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中山五則は緊張していた。渋沢一二三の命で妖怪研究会の新年会の余興をしなければならなくなったからだ。渋沢家への新年の挨拶で調子に乗ってやった余興が一二三の琴線に触れたのが運の尽きと腹を括って舞台袖で額に五円玉をつけた。

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