「つなちゃんそのスタイルぅ?」今野円が声をかけると宮本つなはビクッとした。「なんだまどかか。これはあれだえーと」「書類整理があるから制服で来たんでしょ。おねえちゃん」宮本けいがフォローした。さやかに樟脳の香りがした。

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「昨年の十月のお話ですが。日記を見ていたら『鎌倉さん鯖を持ってきてくれる』と書いてありましたの」柳田先輩は全く思い出せないでいたが鎌倉音東はすぐに理解して軽く柏手を打った。「あぁ先輩、それサーバーを増設した日ですよ」

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「鎌倉さん」鎌倉音東が振り返ると柳田先輩がいた。「どうしたんですか?」校内ではわざわざ会いに来なければ他学年の生徒と顔を合わせることはほとんどない。「以前に貴女から鯖をいただいたかしら?」唐突な質問に音東は困惑した。

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『えんすけっ!』オフィシャルサイトに、新しい短編「えんすけっ!外伝~吉川観保の憂鬱~」をアップしました。あと人物相関図を増補しました。http://t.co/n2MTqRYSkr

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「まどか、きもいよ」と口井章に言われてシュンとなっている今野円の横で牧田スガは中華まんを食べながらご満悦だ。「オイシイデスカ?」Iー836が聞いてきたのでスガは少し千切ってあげてみた。「セイブンハ コムギコ デスネ」

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「昨日のPSIユーキみましたか」谷宇雪は好きなテレビ番組の名前を口にした。「みてないよぉ」今野円が答えた。「えー昨日は最終回『さようならゲンジョ』だったんですよ。今日の第一話『やったねゲンジョ』は必ずみてくださいね」

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中山五則は額から五円玉が落ちると同時にそれを蹴り上げ、「これは大変御利益のある仏ビームです。皆さんおめでとうございます」と言ってキャッチした。以来、五則は妖怪研究会で五円玉の人と呼ばれている。名前は覚えられていない。

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空気が冷えきったと言う表現が正鵠を射た瞬間だった。若いスーツ姿の男が額に五円玉をつけて仏像のようなポーズでゆっくり歩いている。皆唖然としている横で渋沢一二三だけが腹を抱えて笑っている。「中山くん、それ何度見ても最高」

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中山五則は緊張していた。渋沢一二三の命で妖怪研究会の新年会の余興をしなければならなくなったからだ。渋沢家への新年の挨拶で調子に乗ってやった余興が一二三の琴線に触れたのが運の尽きと腹を括って舞台袖で額に五円玉をつけた。

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柳田先輩は機嫌が良かった。「見越入道の系統って見上入道とか次第高とか伸上りとかヤンボシとかノリコシとか色々あるけど、夜走さんの方では何と言ってますの?」柳田先輩の唐突な質問に夜走清は「さあ?」としか答えられなかった。

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白作さんが店を閉めようとすると野間果数実が駆け込んできた。果数実は息を切らしながら「アイスくださいな」と言った。「いつも遠いのによくくるね」「カロリー消費に調度いいのよ」「カロリー女史めっ!」白作さんはレジを開いた。

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午後の食べ歩きは『純喫茶ゼ・ミナール』から始める牧田スガの休日。カランカランとドアのベルが鳴る。年の頃はスガと同じぐらいの華奢な女子が入ってきて「ナポリタン、ソーセージ多めで」と注文した。スガはこやつできると思った。

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「昨日はケーキ食べたょ」今野円は嬉しそうに話した。「私も食べたよ」と言って牧田スガは手をチョキにして二つと続けた。「スガリン二種類食べたのぉ?」と円が聞くと「2ホール」とスガは答えた。「デコレーションケーキの魅力ぅ」

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早川孝子はきょうがお誕生日です。

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「あっそれ」後ろから不意に声がかかった。振り返ると吉川観保がいた。今野円が持っている瓶を舐めるように見てスケッチを始めた。「北越雪譜の異獣のイラストだね。どこで買ったの?」「白作さんのお家ですよぉ」「あぁ、あそこか」

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「もう十二月だねぇ」赤や黄色に彩られた地面を見ながら今野円はしみじみした。「大分冷え込んできたね」口井章は両手を口に当ててはぁっと息を吹きかける。「鍋の美味しい季節だね」と言うと、牧田スガは中華まんを口に放り込んだ。

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「まどか、あぶないっ!」と口井章が発声するより早く吉川観保は自然に身体を反らせてぶつかりそうな今野円を避けた。手にはスケッチブックを片手にペンで紅葉を捉えている。それも自然に人を避けて歩きながらなので章は唖然とした。

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「酉の市で見世物も見たんだょ」今野円の興奮は収まらない。「へぇーどんうだった?」口井章も少し気になった。「えーとぉ、蛇食べてたょ」「うぇぇ」蛇は食べられると牧田スガが言ったので、蛇を食べるスガしか思い浮かばなかった。

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牧田スガは小さい缶を両手で持って口に運んだ。美味しそうな顔をするので今野円は我慢できずに「スガリン、ちょっと飲ませてぇ」と言うと無言で渡されたのでゴクと飲むと微妙な顔をした。「砂糖水だといってもよいような飲料ですぅ」

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牧田スガが蛇を放り投げたことで人集りからは歓声と悲鳴が二分して上がった。口井章はどちらかというと後者だった。「スガリン、よく蛇なんか触れるね。蜘蛛はあんなにダメなのに」「え? 蛇は食べられるよ」とスガは自然に答えた。

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