日野寿は狼狽えた。「吉川先輩、勘弁してくださいよ」鉛筆を構えて吉川観保は「絵に描いたような風紀委員って感じで良いね。うちのことはいないもんだと思っていつも通りに」と言った。いつも通りだと注意しなきゃいけないんですが…

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今日も唐突に始まった。「痛絵馬ってさぁ」「あのアニメとかの絵を気合い入れて描いた絵馬ね」今野円の振りに応えてしまう口井章がいる。「あんな風に妖怪描いたら楽しいよねぇ」神様に妖怪? って以前に「あんた絵下手じゃん」

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「あっ!」今野円は書架をチラチラ見ていると知った顔と目があった。「あっ!」吉川観保も同じ反応を返した。「調べもの?」と観保が聞くと円はビクッとして「宿題しにぃ」と言って本を後ろに隠した。本には船橋市史と書いてあった。

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「スガリン、聞いてるのぉ?」「うーん聞いてるよっ」と言いながら牧田スガは今野円の手元のサンドウィッチに釘付けだ。スガが頼んだナポリタンの皿は既に平らげられている。「まどかのだよぉ」と言うと円はスガの視線を手で遮った。

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「まどかの話、ちょっとうす気味悪かったからね」牧田スガはナポリタンを啜りながら言った。「そんなことないよぉ。あきちゅわぁん、そんなことないよねぇ」今野円はすがるように口井章に泣きついた。「あぁ。まどか、きもいからね」

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「児泣き婆はカボチャだから食べられる」牧田スガは一口チョコを口に頬張りながらブツブツ言っている。「スガリン、どうしたのぉ?」今野円が聞くと「食べられる妖怪について考えてたの」と答えてスガはもう一つチョコを口に入れた。

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「あれぇ、オットー先輩?」鎌倉音東は書架をじっと見て本を一冊取り出すと隣の棚に移した。「さっきの本だけ棚が違ってたから」確かに管理番号が違う。「まどかちゃんも読んだ本は元の場所にね」と言って音東はまた書架を見回した。

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「まどか、それ食べないの?」牧田スガは今野円の皿の海老フライを指差した。「まどか海老フライ好きだから取っておいたんだょ。スガリンにはあげないよぉ」眉毛をハの字にして円は言った。「ちぇーっ! 好きなの先に食べないんだ」

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「あつい〜」と言いながら牧田スガはアイスを咥えて出てきた。「スガリン、それぇ」今野円は素っ頓狂な声をあげた。「アイスだよ」いやそれはわかるけど。すぐに食べ終わって名残惜しそうに棒を咥えていたら日野寿に呼び止められた。

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「ビシャが憑くぅ〜♪」と歌っている今野円は青い。一緒に歩いている牧田スガはお茶のような緑だ。「スガリン、そのあまがっぱ可愛いね」スガはニコっと笑顔で「これ、チャブクロの新作」と言った。胸もとには白い目が描かれていた。

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「スガリン何食べてるのぉ?」牧田スガが鞄からパンを取り出して頬張るのを今野円は見逃さなかった。「はほひはんのはんあお」「ぬらりひょん?」殆ど聞き取れない。スガはごくんと飲み込むと「ナポリタンのパンだよ」と言い直した。

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「寒くなってきたねぇ」「紅葉狩りの季節ももうすぐだね」「また行きたいねぇ。スガリンも行くぅ?」今野円と口井章がそんな会話をしている隣で牧田スガはパンをもぐもぐと食べながら「紅葉狩りは食べられないからいいや」と答えた。

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きゃーと悲鳴をあげて牧田スガは口井章の後ろに隠れて肩を震わせている。「スガリン、どうしたのぉ」今野円が心配そうに声をかけた。スガは真っ青な顔で地面を指差して「く…蜘蛛」と言うと同時にそれをI-836がパンっと潰した。

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蛇を見て口井章は悲鳴こそあげなかったもののとても厭そうな顔をした。足取りも少し重い。「まどか、戻って来なよ」今野円が人集りに揉まれている横を牧田スガは上手くすり抜け蛇の前に行くと尾をむんずと掴んでー近くの茂みに投げた。#えんすけっ!

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牧田スガが蛇を放り投げたことで人集りからは歓声と悲鳴が二分して上がった。口井章はどちらかというと後者だった。「スガリン、よく蛇なんか触れるね。蜘蛛はあんなにダメなのに」「え? 蛇は食べられるよ」とスガは自然に答えた。

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牧田スガは小さい缶を両手で持って口に運んだ。美味しそうな顔をするので今野円は我慢できずに「スガリン、ちょっと飲ませてぇ」と言うと無言で渡されたのでゴクと飲むと微妙な顔をした。「砂糖水だといってもよいような飲料ですぅ」

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「酉の市で見世物も見たんだょ」今野円の興奮は収まらない。「へぇーどんうだった?」口井章も少し気になった。「えーとぉ、蛇食べてたょ」「うぇぇ」蛇は食べられると牧田スガが言ったので、蛇を食べるスガしか思い浮かばなかった。

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「まどか、あぶないっ!」と口井章が発声するより早く吉川観保は自然に身体を反らせてぶつかりそうな今野円を避けた。手にはスケッチブックを片手にペンで紅葉を捉えている。それも自然に人を避けて歩きながらなので章は唖然とした。

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「もう十二月だねぇ」赤や黄色に彩られた地面を見ながら今野円はしみじみした。「大分冷え込んできたね」口井章は両手を口に当ててはぁっと息を吹きかける。「鍋の美味しい季節だね」と言うと、牧田スガは中華まんを口に放り込んだ。

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「あっそれ」後ろから不意に声がかかった。振り返ると吉川観保がいた。今野円が持っている瓶を舐めるように見てスケッチを始めた。「北越雪譜の異獣のイラストだね。どこで買ったの?」「白作さんのお家ですよぉ」「あぁ、あそこか」

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