「ここへ来たってことは食べるんだろう!」
「今日は僕のおごり!一緒に食べようよ!」
「一緒にいいの!?ありがとうございます!」

「いつもの席で待っててな」
「お願いしま~す」

「こうして僕のバイト生活は青春で終わったんだ!」

『良かった~!』

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「あと、この店以外で話しかけるのは緊張して…」
「なんだよそれ…口下手かよ…」

「全部"網野くんらしい"じゃん……」

「バンガくん…?」
「え、泣いてる?!…ごめんね…」

「また体験したことのない感情だった
 湧き上がり溢れてくるものを僕は抑えることができなかった」

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「…はは…どこで何をやってたの…?」

「えぇと…医者に糖質制限されてしまい…会社を休んでダイエットしました」
「ここへ来ると食べたくなるから…」
「だからか…せめて言ってくれよ~!」
「街中であなたを見かけたけど、忙しそうだったから…」
「君を探してたんだよ!!」

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「まさかと思って勢いよく振り向いたら」

「あみn………は?!」

「あ…お久しぶりです」

「誰?!」
「バンガくん!オレですよー!?」
「分かるけど!誰?!」
「えー?!」

「様変わりした網野くんがそこに立っていたんだ」

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「その日はバイトの最終日だった」

「ワンさんが好きに食べていいと言ってくれたから」
「お気に入りのベーグルをトースターに入れて」
「色んな想いを馳せながら焼き上がりを待っていたら」

「後ろからあの声が聞こえたんだ」

「あぁ~…やっぱり良い匂い」

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「その日を境に彼は店に来なくなってしまった」
「1週間、2週間…1カ月、彼は来なかった」
「僕は生まれて初めて後悔という感覚を味わった」

「彼の連絡先も分からず、オフィス街を探索した」
「けど会えることも無く、何もできず…僕は半年のタイムリミットを迎えた」

そんな…

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「少しずつ彼の食べる量が減ってきた」
「つらそうな彼自身も周囲の目も気している」
「食べ飽きたんだと思い、声を掛けたんだ」

「網野くん…無理して来なくていいから」

…それって…

「当時僕も若くて、言葉選びは良く無かった」

「彼の表情の意味も理解出来ていなかった」

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「"友人"…と呼べる間柄に…なった気がして、嬉しくて」

「売り上げよりも、彼の為にベーグルを用意して食べさせたい」
「彼の喜ぶ顔をもっと見たい」
「そう思うようになったんだ」

『わぁ…!素敵な話ですね!』

「……でも…」

…え?

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「数カ月経ち、拠点を構えようという話になった」
『拠点?もしかして…?!』
「君たちが通ってる店が第一号の本店だ」

『網野さんのおかげでそこまで発展を…?』
「詳細は割愛するね」
『でも…彼は毎日通ったんですね…』
「…そうだね。いつしか、客とバイトという関係から…」

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「ベーグルを大食いするおじさんはオフィス街で有名になっていったよ」
「見に来る目的の客、リピーター、日に日に増えてきてね」

「そして売り上げが毎日更新していくんだ。彼はただ好きに食べているだけなのに」

影響力すごい…

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「彼の専用席を作って」
「彼の来やすい場所、特にオフィス街を回るようにした」

「その代わりに、SNSで”ベーグルおじさん”という名物客扱いで宣伝に起用したんだ」

『…えぇ?!』

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「これはもしやと思って、次の日も同じ場所で営業をしてみたら」

「よかった~!今日もここで営業してる!」

「案の定彼は来てくれたんだ」
「もちろんその日も売り上げは好調に!」

「僕も商品棚が空っぽになるのが面白くなっちゃって、
彼に提案をしてみたんだ」

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「その彼の食べっぷりは通行人が足を止めて見惚れるほどで、気が付いたらお客さんの注文が殺到していたんだ」

「ワンさんが戻ってきたころには在庫が無くなってたから驚いたよ」

「彼は食べていただけで十分な宣伝効果を果たしたわけだ」

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「椅子の耐久が心配だったけど、彼には席で食べてもらったよ」
「ベーグル6個、半分はリベイクでね」
『量が”網野さん”だ……』

「彼の食べっぷりは見ていて爽快なほどとても美味しそうで」
「バイトを始めてから、初めて少しだけ嬉しいかもしれないって気持ちになれたんだ」

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「あ!!違うんスよ!これは試作で…」

ワンさんが早く戻ってきたと思って、慌てて振り返ると…



「…うぉっ!誰?! ストップストップ!」
「…ここ…お店…?」

「まさに食いしん坊!なライオンおじさんが、香りに誘われそこに居たんだ」

『…網野さん以外考えられない…』

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「僕も小腹が減っちゃってさ」
「魔が差して、こっそり持参したトースターにベーグルを入れたんだ」
『それ、魔が差すっていうか計画犯じゃないですか…』

「…それで焼き上がりを待っていたら」

イイニオイ…

「背後から声が聞こえたんだ」

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「じゃあ今回は君の為に色々話を省略して…」

流石に彼に失礼だったよね…反省…

「僕は売れない移動カフェでアルバイトすることになった」

「予想通り客は来ない」
「ワンさんは商品を売るために、ヒトの多い場所で路上販売もしていたんだ」

「"その日"もちょうど昼時だった」

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話が脱線してる…得意げに話す彼を止めないと…

『話してくれてありがとうございました』
「え?!」
『今日は楽しかったです!』
「待って!網野くんはこれから登場するから!
 話の順序があるんだ!」

『それならいいんですけど…』
「…君の順応性と適応力には驚かされるなぁ」

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「ワンさんに」
『また?!』

「本店らしいその店も同じように客の気配が無かった」
「だからその店でバイトしようと決めた」
『そんな基準で決めたんです?!』
「やぁ~暇で楽そうだなって思ってさ」

むちゃくちゃだ…
というか…網野さんが登場する雰囲気がしないんだけど…?

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「実際それは美味しかった。手作りの良さが伝わってくる食べ応えで味も良かった」
「でも飲み物が欲しくなっちゃってね」
「近くを検索したら移動カフェがあるから寄ってみたんだ」

「そしたら、そこでついに出会ったんだ」
『今度こそ網野さんに!!』

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