「自宅まで送ろうか?」
『買い物をするので駅前でお願いします』
「分かったよ」

『あの…あなたがCEOになった話が途中ですけど…
参考になるかもしれないので、今度聞きたいです』

「もちろんいいよ!ワンさんのこときっと好きになるから!」

すごく話したかったんだなぁ…!

20 124

「そんなわけで、彼のお陰で"今の僕"があるんだ」
「彼は僕に様々な感情を与えてくれたかけがえのない友人だ」

「僕の我儘に長く付き合ってくれた彼の素直で堅実な姿に憧れていたんだよね」

『それは…自分も分かります!だから彼が…大好きなんです!』
「うん そうだよね!」

26 157

「後日、彼の通ってるジムを紹介してもらってね」
「そこで僕の天使に出会ったんだ」
『あ、それは葉さんですね!』

「そう!!!!あの頃の彼女はもっと綺麗で逞しくて最高に素敵でさぁ~!!!!!!!」
「聞いてくれる!?!?」

『…次回のお楽しみに取っておきたいですね~』
「そっかー」

26 118

「その後、バイト最終日というのも伝えたら連絡先交換してくれてさ」
「誤解も解けて、僕らは本当の友人になったんだ」

「でも急激に痩せた彼にはビックリしたんだよ!」

急激に痩せた……あれ?

『もしかして網野さんは、その頃からジムに通ってた…?』
「そういうわけさ!」

25 152

「ここへ来たってことは食べるんだろう!」
「今日は僕のおごり!一緒に食べようよ!」
「一緒にいいの!?ありがとうございます!」

「いつもの席で待っててな」
「お願いしま~す」

「こうして僕のバイト生活は青春で終わったんだ!」

『良かった~!』

40 199

「あと、この店以外で話しかけるのは緊張して…」
「なんだよそれ…口下手かよ…」

「全部"網野くんらしい"じゃん……」

「バンガくん…?」
「え、泣いてる?!…ごめんね…」

「また体験したことのない感情だった
 湧き上がり溢れてくるものを僕は抑えることができなかった」

30 173

「…はは…どこで何をやってたの…?」

「えぇと…医者に糖質制限されてしまい…会社を休んでダイエットしました」
「ここへ来ると食べたくなるから…」
「だからか…せめて言ってくれよ~!」
「街中であなたを見かけたけど、忙しそうだったから…」
「君を探してたんだよ!!」

27 170

「まさかと思って勢いよく振り向いたら」

「あみn………は?!」

「あ…お久しぶりです」

「誰?!」
「バンガくん!オレですよー!?」
「分かるけど!誰?!」
「えー?!」

「様変わりした網野くんがそこに立っていたんだ」

47 277

「その日はバイトの最終日だった」

「ワンさんが好きに食べていいと言ってくれたから」
「お気に入りのベーグルをトースターに入れて」
「色んな想いを馳せながら焼き上がりを待っていたら」

「後ろからあの声が聞こえたんだ」

「あぁ~…やっぱり良い匂い」

29 176

「その日を境に彼は店に来なくなってしまった」
「1週間、2週間…1カ月、彼は来なかった」
「僕は生まれて初めて後悔という感覚を味わった」

「彼の連絡先も分からず、オフィス街を探索した」
「けど会えることも無く、何もできず…僕は半年のタイムリミットを迎えた」

そんな…

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「少しずつ彼の食べる量が減ってきた」
「つらそうな彼自身も周囲の目も気している」
「食べ飽きたんだと思い、声を掛けたんだ」

「網野くん…無理して来なくていいから」

…それって…

「当時僕も若くて、言葉選びは良く無かった」

「彼の表情の意味も理解出来ていなかった」

25 132

「"友人"…と呼べる間柄に…なった気がして、嬉しくて」

「売り上げよりも、彼の為にベーグルを用意して食べさせたい」
「彼の喜ぶ顔をもっと見たい」
「そう思うようになったんだ」

『わぁ…!素敵な話ですね!』

「……でも…」

…え?

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「数カ月経ち、拠点を構えようという話になった」
『拠点?もしかして…?!』
「君たちが通ってる店が第一号の本店だ」

『網野さんのおかげでそこまで発展を…?』
「詳細は割愛するね」
『でも…彼は毎日通ったんですね…』
「…そうだね。いつしか、客とバイトという関係から…」

20 81

「ベーグルを大食いするおじさんはオフィス街で有名になっていったよ」
「見に来る目的の客、リピーター、日に日に増えてきてね」

「そして売り上げが毎日更新していくんだ。彼はただ好きに食べているだけなのに」

影響力すごい…

25 103

「彼の専用席を作って」
「彼の来やすい場所、特にオフィス街を回るようにした」

「その代わりに、SNSで”ベーグルおじさん”という名物客扱いで宣伝に起用したんだ」

『…えぇ?!』

31 155

「これはもしやと思って、次の日も同じ場所で営業をしてみたら」

「よかった~!今日もここで営業してる!」

「案の定彼は来てくれたんだ」
「もちろんその日も売り上げは好調に!」

「僕も商品棚が空っぽになるのが面白くなっちゃって、
彼に提案をしてみたんだ」

49 259

「その彼の食べっぷりは通行人が足を止めて見惚れるほどで、気が付いたらお客さんの注文が殺到していたんだ」

「ワンさんが戻ってきたころには在庫が無くなってたから驚いたよ」

「彼は食べていただけで十分な宣伝効果を果たしたわけだ」

50 298

「椅子の耐久が心配だったけど、彼には席で食べてもらったよ」
「ベーグル6個、半分はリベイクでね」
『量が”網野さん”だ……』

「彼の食べっぷりは見ていて爽快なほどとても美味しそうで」
「バイトを始めてから、初めて少しだけ嬉しいかもしれないって気持ちになれたんだ」

53 272

「あ!!違うんスよ!これは試作で…」

ワンさんが早く戻ってきたと思って、慌てて振り返ると…



「…うぉっ!誰?! ストップストップ!」
「…ここ…お店…?」

「まさに食いしん坊!なライオンおじさんが、香りに誘われそこに居たんだ」

『…網野さん以外考えられない…』

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「僕も小腹が減っちゃってさ」
「魔が差して、こっそり持参したトースターにベーグルを入れたんだ」
『それ、魔が差すっていうか計画犯じゃないですか…』

「…それで焼き上がりを待っていたら」

イイニオイ…

「背後から声が聞こえたんだ」

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