【おしらせ】絶賛連載中! 米軍基地内での小学生体験を描いた「金網の向こう」のまとめを作成しました。まとめ読み&一気読みに、ぜひご活用ください!!  https://t.co/SViPKSuPk8

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【26】次の日からジェフと一緒に行動した。毎日何か理由をつけて電話代をたかられたが、それくらいなら安いものだった。弁当もおかずのソーセージを中心にとられたが、代わりに毎回ジェフが持ってきている「Cup O’ Noodle」のシュリンプ味を分けてくれる。

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【25】「ガムはトライデントかインディアン印だ。バブリシャスはゲイだから噛むな」「チョコバーはここでは通貨だから、ミニサイズのやつを持ち歩くこと」「あとスニーカーは磨くな。貧乏に見えないとまた目をつけられる」そんなジェフのアドバイスを全部頭に叩き込んだ。

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【24】「ガムは噛んだ方がいいが、中学生が通ったらこうやって隠せ」そう言ってジェフは噛んでいたガムを近くのテーブルの下に貼り付けた。「中学生が見えなくなったらもう一回食っていいから」当たり前のようにテーブルの下からガムをはがして、ジェフはそれをまた噛む。

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【23】運動場にも先生はたまに来るのだが、小競り合いくらいは注意しない。そういう学校だった。「どうしてもナイフで刺す時は肩の外側を狙うんだ。動脈に当たらないからな」と笑いながら言っているジェフが怖かったが、それでも笑わないとチキンになると思って笑った。

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【21】それからジェフにペリースクールの中を案内してもらった。ひとつずつ、先生は教えてくれないルールをジェフが教えてくれる。運動場のうち、白人が固まっているセクション。黒人だけしか入れない路地裏。マリファナを売っている中学生がいつもいるところ。

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【20】言っていること以上に、その時のジェフの行動が日本の学校とここは違うことを教えてくれた。ロドリゲスにびびらなかったことじゃない。確かにぼくは見た。ジェフはロドリゲスに十円玉は二枚しか渡していなかった。あと一枚は、きっとジェフのポケットの中だった。

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【19】「金もこれしか持ってないんだよ」そう言って、ジェフは十円玉を差し出して肩をすくめた。ロドリゲスはちっと舌を鳴らして、一回肩をぶつけて去って行った。「あいつら、ほんとはナイフ使う度胸ないんだ。でも、なめられたら終わりだよ」

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【18】「ジャップ、金持ってきたんだろうな。じゃないと今日が命日だ」とナイフを突き出すロドリゲス。ぼくは一歩も動けなかったが、ジェフが横から飄々とした声で言った。「ロディ、勘弁してやってくれよ。こいつは貧乏だからまともな日本の学校に行けないんだ」

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【17】食堂は賑わっていた。入った途端にロドリゲスに見付かる。不良グループがこっちを指差しているのが見えた。ジェフが「金持ってるのか」と言うので、とっさに三十円渡した。ロドリゲスがナイフをパタパタさせながらやってくる。ぼくは足が震えて止まらなかった。

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【16】「食堂行こう」とジェフは言った。ぼくが絶対いやだと言うと「分かってねえな。ここで行かなかったらチキンの烙印押されるぞ。毎日がヘルになってもいいのか」そう言って、ジェフにひっぱられて食堂に連れて行かれた。敷地内の教会のベルが弔いの鐘に聞こえた。

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【15】「下はなんていうんだ。ここじゃ下が大事なんだ」とジェフは言う。「ムーコヤマ」と答えると、ジェフは首を傾げた。発音できないらしい。「いいや。おれはジェフでいい。仲間以外には姓を使え」よく分からなかったが、「仲間」という言葉が泣くほどうれしかった。

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【14】「弁当半分よこせ」少年が言った。「おまえの弁当うまそうだから、食わせてくれたらおれがここでのルールを教えてやるよ」食欲はまるでなかったので、弁当はすぐに差し出した。「おれはジェフ・ギブンズ。おまえは?」と聞かれて「テディ」とアメリカ名を答えた。

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【13】「ロドリゲスか」といきなり横から声をかけられた。見るとそばかす面の少年が覗き込んでいた。びくっとなったが、少年は同じクラスの子だった。「ロドリゲスが怖いんだろ」と言われて、それが昨日のラテン系の名前だとすぐに気が付いた。「うん」とぼくは答えた。

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【9】母親はよほど無理をして入学させてもらったのか、しきりに校長先生に感謝していた。校長先生もぼくのことをほめてくれる。家に帰ってからも母が父に「よかったわ」と話すのを聞いて、どうしても言い出せなかった。

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【8】学校が終わるまでは怖くてずっとうつむいていた。母親が車で迎えに来たら、すぐに泣き付いて学校を替えてもらうつもりでいたが、迎えに来た母親は校長先生と一緒だった。女性の校長先生はとても親切で「新しい学校はどう?」と聞かれて、とっさに何も言えなかった。

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【7】「ジャップのガキがいる」とさっそく取り囲まれたが、ぼくはお金を持っていなかった。すると、リーダー格のラテン系の中学生にナイフを突き付けられて、あした金を持ってこないと刺し殺すと言われた。友達は誰もいない。助けはなかった。

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【6】ただ、教室はましだった。昼になると、学校のカフェテリアに行くのだが、そこでは小学生のみならず、中学生も一緒になる。この中学生がみんなポケットナイフを玩具代わりに持っていて、先生の言うことなんておかまいなしに小学生にお金をたかって回っている。

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【5】軍人の子供だらけの学校で、先生にも軍人関連の人が多かったので、とにかく攻撃的な雰囲気に校内が満ちている。喧嘩が始終起きていて、なんでも競争させられる。初日には「日本人が来やがった」と学校中で噂になり、国際色豊かな悪口を一日中浴びせられていた。

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【4】金網ひとつ隔てると中はまったくのアメリカで、歩道、電信柱、消火栓、すべてがアメリカ仕様。交通標識も英語だった。アメリカ生まれのぼくは、小学校一年生まで向こうの学校に通っていたので言葉に違和感はなかったが、学校の雰囲気は普通の学校とかけ離れている。

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