以上でテディこと向山貴彦氏の幼少期の物語はおしまいです。テディに代わってぽつぽつ投稿できたらと始めた連載でしたが、毎回「たかさん、明日もたのしみにしてるよ」っていうテディの声が聞こえて休めませんでした(笑) お付き合いくださったみなさまに感謝します。

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【69】でも「もう彼らと会うことは二度とないだろうな」と漠然と感じていた。たぶん彼らも感じていたと思う。それは決して交差しない道が、何かの間違いで束の間交わっただけなのだと。

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【68】四年生の最後の日、クラスのみんなからお別れの手紙をもらった。最後に4スクエアのコートでジェフとスティーブとスウェイジーでボールを投げ合った。ジェフが4スクエアをやりながら、ぼくに「また遊びにこいよ」と言った。

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【67】四年生が終わった時、ぼくははっきり親に五年生は日本の小学校に戻りたいと言って、ペリースクールに行くことは断固として突っぱねた。たぶん、もうそこで生きて行くことはできるようになっていた。でも、いやだった。そこは明らかに自分の居場所じゃなかった。

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【66】その後もしばらく六年生との小競り合いは続いたが、スペイシー自身は近寄ってこなくなった。ロドリゲスに「おまえ、カミカゼらしいな」と廊下で笑いながら言われたことが一度あったが、それきりだった。そのうち父親の配置換えで、スペイシーは学校から姿を消した。

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【64】でも、しばらくしてスペイシーは泣きながら顔を上げた。血まみれになった顔を押さえていた手を離すと、指にくっついて前歯が二本、血の糸を引いてこぼれ落ちた。その血でスペイシーはショック状態に陥って、意味の分からないことを口走りながら運ばれていった。

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【63】コマのように半回転して、すごい勢いで顔から先に地面に突っ込んだスペイシーは断末魔のような声を上げた。一瞬、首が180度回ったように見えた。その時、ぼくは本当にスペイシーが死んだと思って、自分も刑務所に行くのだと覚悟した。

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【62】ちょうどタイヤが当たる瞬間、スペイシーが振り向いたので、タイヤはまともにスペイシーの顔面を直撃した。重いタイヤの飛ぶ方向が変わるほどの衝撃でスペイシーは吹き飛んで、血が飛ぶのが見えた。その倒れ方があまりにもすごかったので、全員動きが止まった。

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【61】タイヤは中に水がたまっていて、ものすごく重かったが、その時は重さを感じもしなかった。さんざん練習した回転トルネード投げがここでも役に立った。遠心力に助けられて、ぐるり一回転回してから、円盤投げのようにタイヤをまっすぐスペイシーの頭に放り投げた。

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【60】クラスのみんなは嫌いじゃない。でも、ここはぼくのいる場所じゃなかった。そう思った瞬間、自分の中で初めて本当に怒りが湧き上がってきた。どうなってもかまわない。こんなところ、くそくらえだと思って足下にある大きなタイヤをつかんだ。

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【59】なんで謝っているのに余計殴られるのか。なんでこんなわけのわからないルールを守らなければいけないのか。――そもそも、なんでぼくはこんな基地の学校の隅にいるのか。その時に初めて自分が日本の学校の友達のところに戻りたいのだと気が付いた。

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【58】目が合うと、ジェフは泣きそうな顔をしていた。小さく「I’m sorry」とつぶやくのが分かった。スペイシーはまだスティーブを蹴っている。先生はこない。本当に手遅れになると思った。――理不尽すぎた。なんでタイヤ跳びを四年生がしちゃいけないのか。

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【56】それは小学生とは思えないほど品性下劣な悪口で、父親のことを誇りに思っているスティーブは我慢しきれずにスペイシーに言い返した。「おまえはオヤジがラリった時にできた子供だ」と。スペイシーはスティーブの体が二つに折れるほど強く、スティーブの腹を蹴った。

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【54】スペイシーに「ムキヤマ、出ろ」と言われて前に出た。目がやばかった。今になって最初の食堂のことを思い返すと、あれはからかわれていただけだと分かるようになっていた。どうりで誰も止めないはずだ。今なら自分も止めなかった。やばい、とはこういうことだった。

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【53】スペイシーは仲間五人と待っていた。幸い一番怖いロドリゲスはその中にいなかった。ただ、残りの五人も全員たばこはもちろん、「粉」もやっているという噂のやつばかりだった。全員揃ったようにナイフをチャカチャカやって待っている。五人の中にジェフもいた。

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【52】場所は六年生の領分のタイヤ跳びのところ。日中、唯一日陰になっている部分なので、六年生のたまり場となっていた。向かう途中、あまりに怖くて泣いているやつもいた。最初に問題を起こしたのはぼくだが、不思議とそれは誰も責めない。それもここのルールなのだ。

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【51】昼休み。スペイシーから使いの五年生が来た。謝れと念を押されて、クラスの連中もすっかり怖じ気づいた。みんなで謝ろうと決めて、全員が持っているお金を集めて、それを代表でスティーブに渡した。そうしてお互いに逃げないように服をつかんで運動場に向かった。

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【50】「もしあいつがナイフこう持ったらマジだから、もうそうなったら殺す気で反撃しろ」とジェフは言い残していった。「おれはロドリゲスの仲間になったから、おまえらの味方はできないからな」

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【49】昼休み直前、ジェフにトイレに呼ばれて、注意された。「スペイシーがおまえを刺すって言ってる。マジだと思う。悪いこと言わないから謝れ」と告げられた。もちろんそうするつもりだった。拳で人を殴ったこともないぼくに、ほかに方法なんてなかった。

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【48】そのうちに「スペイシーたちをぶっつぶそう」みたいな話になって、クラスの男子の喧嘩自慢が団結し始めた。そのことが六年生の耳に入り、スペイシーは「あのジャップがおれの首を狙ってる」と言い出し、校内は一触即発の状態に突入した。

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