「問題のアーティファクトはこれよ」
そう言ってイリシアが見せてきたものは……ああ、我々現代人に最も馴染み深いものだった。ご丁寧に林檎のマークまで付けられている。
「謎の言語が映し出された石板……恐らくは異世界における紙の役割よね」
……間違ってはいない

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「光栄に思うことだ、王立騎士団に呼ばれる人間は一握りなのだよ?」
廊下を歩く途中、シェスが囁いてくる。彼女もただのバーのマスター……ではないのだろうか?
「あれは道楽。私の本職は異世界から流れてきた遺物――アーティファクトの調査さ」

0 2

走るイリシアに追いつこうと必死に走る。明日の筋肉痛は確実だ。
「貴方もとんだ災難じゃない。でも、イリシアの知り合いとまでは思わなかったわ」
マスター改めシェスは随分と余裕そうに私と平行する。イリシアの目的もそうだが、彼女たちは何者なのだろうか?

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「シェス!」
駆けこんできた女性に目を見開く。私に見向きもせずにイリシアはバーのマスターに詰め寄った。
「また力を借りたいの……いい?」
「……嫌と言っても仕方ないんだろう」
手を引いて急いで出ようとする時、視線が合う。
「アーサー……? 貴方も来て!」

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「お水だけ? 冷やかしのつもり?」
夜。何も口にできずに空腹のまま辿り着いた裏路地のバー。無一文な事を説明すると、マスターはケラケラと笑いながら水とサンドイッチを出してくれた。
感謝のまま口に運んだその時――扉が音を立てて開かれる。

0 2

私が誘われたのは暗い裏路地。気付けばそこは明らかに一般市民が訪れる場所ではない。ニヤついた男がナイフを片手に――
「――し、失礼しましたぁ!!!」
逃げていく男たちの反対側を見る。彼を見て感じたのは二つ――恐怖と、動く狐耳をモフる欲求だ。

0 2

「なんだ貴様。僕に何か用でもあるのか、無いならとっとと失せろ」
確かに見ていたのはこちらだけれど、とんだご挨拶もあったものだ。まあ、用があるわけじゃないのだけれど……
左右で違う色の靴は指摘した方がいいのだろうか?

0 1

公園のベンチに何気なく腰掛け、何をするでもなく足を振る。イグサリスの活気は子供たちからも伝わっていて――
「ふぎゃっ!!?」
踵が何か硬い物に当たり、そこから声がする。この世界のベンチが喋らないとすれば、まさか……

0 3

「そういえば、あなた名前は?」
私の本来の名前は言いづらいと一瞬で却下されてしまった。納得いかない。
「なんだか呼びづらいし、アーサーって呼ぶわ」
ただ単に苗字を文字っただけのものなのだが……それが、私がアーサーになった瞬間だった。

0 3

イグシア王国、王都イグサリス――アリシア曰く「ルアで最も神秘に近い国」なのだそうだ。
私の知るあらゆる常識からかけ離れている。しかし、どこか高揚した感覚を覚えずにはいられなかった。
これが――冒険の始まりなのだろうか。

0 5

まさか乗馬体験が役に立つとは。道中、私はアリシアから色々なことを聞いた。
ここが地球とは違う世界「ルア」であること。時たま異世界から何か不思議な物が流れつくこと。
「でも、人間が流れ着いたなんて初めて聞いたわ」
クスリと彼女は笑う。

0 3

森を抜けた先には草原が広がっていた。やはりここが異世界なのだと実感させられる。
「あんな森に入るなんて、自殺行為にも程があるわよ」
馬にひらりと跨ると、アリシアが手を差し伸べる。
「ほら、乗りなさい。馬には乗れるわよね?」

1 6

森を歩いて二時間で立てなくなった。己の運動不足が恨めしい。
このまま行き倒れるものと覚悟した私に不意に手を差し伸べたのは、驚くほどに美しい金髪の女性だった。
「レグナールの森の奥で死体以外の人に出会うなんて、初めての経験だわ」

0 6

自分の身に起きたことが信じられなかった。眩い光に思わず瞑った目を開けば、そこは雄大な大自然、煌めく太陽、遥か先まで続く、現代日本ではあり得ない世界が広がっている。
私は何故か直感した。私は今、本の中の世界にいる。

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