月明かりの下で、肌に咲いた薔薇は柔らかに脈打った。
「綺麗ね」
女は恍惚の表情を浮かべた。私は頷く。彼女の望みは叶ったのだ。
「ほんものはいつか枯れてしまう。だから美しいにせものが欲しいの。永遠に朽ちることのない…」
沸き立つ血が、白い花弁を鮮やかに縁取る。

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これ以上 青が浸透して
透明な青になったら
わたしの赤い心が見えてしまう
壊さないで 割らないでね
だんだん青に染まる大切なところ
だけど割れちゃった方が楽になれる気もする
赤が消える 青も消える…
わたしも消える
綺麗な青いガラスになった身体だけを残して

0 3



全文雨語のノート。それは6月の暗号。
それを持って君の話しを読みに来た。さあ泣かない。物語のラストは初夏で君もよく知っている花の咲く音、ぽん。泥の中から咲け泥に染まらず咲け。才能はまだ終わっていない。涙の池の中からだからより美しく咲く極彩色。

0 11

花が

  咲いて
    咲いて

        咲いて

      胸の中に
     溢れて

   苦しくて

 ただ
  息を吐いた

      甘い香りが
        髪を揺らした

0 10



ブルーローズの印を付けた。
それは「奇跡」。
彼女の行く先々は何時も
奇跡が起こるのが当たり前になっていた。

西に東に世界に一人だけの使命を背負い旅をする。
後に支持する沢山の人々が列を成して後に続く。皆、幸せで感謝の言葉を歌った。

私は銃口を向ける。

0 11


「夜鴉に恋は許される?」
若い瞳が懇願に潤むのに、私は肯いた。
でもね、と微笑む。
「私たち娼婦は――『夜鴉は胸に白薔薇を抱けよ』よ」言い古された台詞を囁く。
蕾はほだされ花開くとも誰にも染められぬ、と。
「貴方も、白いまま?」
遠く鴉が啼く声。
「……えぇ」

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ここ数日何も彫れてない
抱える膝は冷たく、白く光る
微かな甘い香り
滑らかな白い花弁
薄いが確かに感じる肉厚は
迸る生か性か
美とは何かと考える
ふと顔を上げると
葦である自らを見た

0 4


貴方は孤独しか抱いていない。
だから貴方の眉間には
そのように深い皺が刻まれたのですよ


謳う
その像の

本当の名前は
『感じる獣』

0 2


誰なのだ?
蒼き花をむしり、その種を無作為に
汚染された大地に撒いたのは?
誰なのだ?
蒼き花を奪うことで苗床の神秘と美を踏みにじったのは?
誰なのだ?
今さら苗床に私=赤い花を咲かせろと要求する輩は?

0 4


銃は産みたくないのだが
ただ、いいにおいのする、やくにたたないものを分娩するために私は生む機械になったのだが

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ずっと忘れられない景色がある。けれど見た場所を思い出せず、探しても見つからなかった。
霧雨の中、解けた靴ひもを結ぼうとしゃがむ彼女の体が窓になり、そこにあの光景があった。
虹の青色だけを背負い、くちなしの傍らに蹲る十四の少女。
君の窓は僕の景色を映す。

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わたしの生命が消える日に
一輪の花が咲くでしょう
あなたが思い出してくれたなら
花は枯れて落ちるでしょう
やがて実をつけ種を持ち
無垢な愛が届くでしょう

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