【173】
静謐のかたち
ひるがえるこの裾も
静謐の中に吸い込まれる
僕の呼吸が
静まりかえった中で
波を立てる
惑星の
終焉のように還る
すべては静謐の中に
瞬きの音が
最後に聞こえた

絵・文:茅野カヤ

3 11

【158】
彷徨う夜に
静けさがピンと張った
月が二重三重に重なって見える
目眩がするような道を
歩いている
足音も響かない夜が
横たわっている
僕も横になりたい
疲れが重くのしかかる
月はもう見ない
見られている、と
感じるから

絵・文:茅野カヤ

1 9

【157】
その存在は踊るように
季節を操る
ひとつの腕で春を呼び
ひとつの腕で冬を留め
ひとつの腕で夏を用意し
ひとつの腕で秋を仕舞う
残った腕で風を操り
雨を呼び
雲を晴らし
光の園で四季を繰る

絵・文:茅野カヤ

2 9

【81】
お腹いっぱいの一年が終わる
それなのにもうお腹が空いている
空洞のお腹の中には
星が散らばっている
また明日
また来年
星は新しい年の種になる
ふくふくと肥った身体に
また根を生やす
そういう年になるといい

絵・文:茅野カヤ

1 16

【80】
人魂って信じる?
そう魂のきれいなひとが言っていた
僕は君の人魂なら信じるよ
心のなかで答える
もういない君が
人魂となって現れるのなら本望だ
きっと君だって分かる
僕と君は魂の双子だもの

絵・文:茅野カヤ

0 6

【9】
夢の中を跳ぶうさぎ
夢色の体毛がふわふわと波立つ
僕は嬉しくて追いかける
でも
いつまで経っても追いつけない
時々立ち止まっては振り返るその姿に
僕は泣きそうになる
手が届かないもの
それが愛しくてたまらない
人間って不思議だね
そう聞こえた気がした

絵・文:茅野カヤ

0 2

秋の訪れを待ち遠しく
空を見上げる
まだ空は近いなあ
もっともっと遠くならなくちゃ
僕の毛は秋色に変わってしまうよ
早く早く
残暑なんてひとっ飛び

絵・文:茅野カヤ

0 8

細胞が生まれ変わる
その瞬間に何かを失う
その何かは
とても大切なものだった気がして
日々、日々、
悲しくなる
それでも生まれくるものに
新たな価値をつけてあげたくて
点々と線を引く

絵・文:茅野カヤ

0 8

魔法使いになりたい僕は
魔法使いのローブを手に入れた
それは古着屋で破格の値段で売っていたもので
ひと目見て一目惚れしたのだった
さて魔法使いになりたい僕は
次は杖を手に入れなければならない

絵・文:茅野カヤ

1 17

影が寄り添うように覆い被さってきた
僕は影に頬ずりをして立ち上がる
影は毛布のようにするりと眼下に落ちた
拾い上げて影を窓辺に干すと
陽の光が透いてきらきらと光る
影は影らしくなく光っている

絵・文:茅野カヤ

2 23

小鳥が鳴き始める
その声で目を覚ます
小鳥は姿が見えず
どんな姿なのか想像する
ひととき
また鳴き声がする
見えない小鳥を追って立ち上がる
窓を開け放したまま
いつでもその声に耳を澄ます

絵・文:茅野カヤ

0 15

ぽっかりと空いた
心の穴に
滲む色
失われた記憶の縁に
色が滲んで
その輪郭が
かすかに見えるようで
恐る恐る触れてみる
手についた色は
ゆらめく色をしている

絵・文:茅野カヤ

1 12

森の主に会った
深い森の色をした衣服を身に纏い
森の奥の奥の湖に案内してくれた
それはとても暗く
しかし掬い上げると澄んだ色をしていた
よくよく見ると
主の目も同じ色をしていた

1 18

記憶がころころと揺れる
ふと立ち止まる
此処はいつか来た道だったかしら
デジャヴが揺れて目眩がする
大切なことは心に染みついている
ころころと揺れる
記憶といつか
大切なものは此処にちゃんとある

0 14

黒衣を纏って
生きてゆく
きらきらと
黒が瞬く
僕の黒は光るんだ
でも時々は
彩りの衣を着てもいい?
赤、青、緑
花柄、星柄、マーブル模様
きらきら輝くことに変わりない
今日も黒が瞬く

2 20

記憶色の生地を広げる
何を縫おうか
刺繍もしたい
繕って広げたら
遠い記憶が
蘇ってくるかもしれない
ドレスに仕立てるのもいいかもしれない
いつでも思い出を纏って
回るたび
記憶がひるがえるのだ

0 17

アイデアをあたためる
気泡はさっき消えた
代わりに
傷口から流れた血を掬う
ぼんやりとした輪郭が浮かぶ
おそるおそる線をひいて
色を落とす

1 13

彗星に乗る
燃え尽きていくいのちに
思いを巡らせる
遠いどこかで流れ星が流れる
僕が乗っていたかもしれない
遠いどこかで
僕はこのいのちに
永久(とわ)を誓う

1 11

ねえ
欠けてゆく月の傍では
うさぎが必死に電灯を点してるんだって
そんな嘘みたいな作り話が好きで
ついつい聞き耳をたてちゃう
うさぎは細い月の傍で灯りを点し
必死に僕らに訴える
此処にいるよ
此処にいるよ

1 10

木漏れ日を広げて
昼寝をする
冷たい風が頬を撫でる
木漏れ日はほのかにあたたかい
こんな日が
ずうっと続くといいのに
でも起き上がらなくちゃ
また歩き出すために

0 13