下宿に戻ると、羊の絵のクリスマス・カードが一枚郵便受けに入っていた。
 そこには「羊男世界がいつまでも平和で幸せでありますように」と書いてあった。

6 60

「クリスマスおめでとう!」とみんなが叫んだ。
部屋の中にはみんながいた。右ねじけも左ねじけも、208も209も、海ガラスの奥さんも、なんでもなしもいた。なんでもなしは口のまわりにドーナツのかすをつけていたのでわかったのだ。羊博士の姿まで見えた。

6 50

羊男はもうなんだっていいやと思って、目についた道をどんどん歩いていった。しばらく歩くときれいな泉があったので、羊男はそこで水を飲み、ドーナツをまたひとつ食べた。ドーナツを食べてしまうと眠くなったので、羊男は草の上に横になって、一眠りすることにした。

4 50

羊男が振りむくと、そこには双子の女の子が立っていた。一人の女の子は〈208〉という番号のシャツを着て、もう一人の女の子は〈209〉という番号のついたシャツを着ていた。
 その番号をべつにすれば、二人の女の子は何から何までそっくりだった。

4 58

下宿に戻ると、羊の絵のクリスマス・カードが一枚郵便受けに入っていた。
 そこには「羊男世界がいつまでも平和で幸せでありますように」と書いてあった。

7 61

羊男が目を開けると、そこには身長140センチくらいの小柄な老人がいた。
「ああ、痛かった」と羊男は言った。「あなたいったい誰ですか?」
「わしが聖羊上人であります」とその老人はにこにこ笑いながら愛想よく言った。

1 19

羊男は草の上にドーナツをひとつ置いて、向うを向いた。やがてこそこそという音がして誰かがやってきて、もそもそとドーナツを食べた。
「おいしいなあ、ほんとにおいしいなあ」とそのなんでもなしは言った。「振り向いちゃいやですよ」

2 20

「私のこと探さないで下さい」と声は言った。
「その、本当になんでもないものなんです。つまらないものです」
「出てきて一緒にドーナツ食べませんか?」と羊男は誘ってみた。「一人でいるのもさびしいし」

3 32

羊男が足をすべらせないないように枝をかきわけながらそちらに行ってみると、その奥には木のほらを利用した小さな小屋があり、小屋の前にはねじけが腰を下ろして、大きな剃刀で髭を剃っていた。
「あれれ」と羊男は言った。「あなたは穴の底にいたんじゃないんですか?」

1 20

羊男がまわりを見まわすと、草原のまん中に大きな木が一本立っているのが見えた。木の幹には縄ばしごかかっていた。他には何も見あたらなかったので、羊男はとりあえずそのはしごを上にのぼってみることにした。

2 17

海ガラスの奥さんの家に行くのはとても骨が折れた。岩はゴツゴツと切り立っていて、道らしい道もないのだ。おまけに強い海風が岩にしがみついた羊男を今にも吹きとばしてしまいそうだった。

2 29

羊男が振りむくと、そこには双子の女の子が立っていた。一人の女の子は〈208〉という番号のシャツを着て、もう一人の女の子は〈209〉という番号のついたシャツを着ていた。
 その番号をべつにすれば、二人の女の子は何から何までそっくりだった。

6 35

僕はまだずっと落ちつづけている。僕の掘った穴は深さ2メートル3センチしかないのだから、底につくのにこんなに長い時間がかかるわけないのだ。

5 28

下宿のおかみさんがやってきて「あんた、なんで穴なんて掘ってるのよ」とたずねた。
「ゴミを捨てる穴を掘ってるんです」と羊男は答えた。「そういうのがあると便利なんじゃないかと思って……」
「ふん、どうだか。変なこと始めたら警察に電話するからね」

2 45

羊博士は『聖羊上人伝』というぼろぼろの本をとりだして、またぺらぺらとページをめくった。
「えーと、うん、ここだ。聖羊上人は直径2メートル、深さ203メートルの穴に落ちて亡くなられた、とある。だからそれと同じ穴に落ちればよいわけだな」

2 29

「僕はもう二度とあの人たちには会えないんだな」    村上春樹・佐々木マキ『羊男のクリスマス』 https://t.co/6PAmxGu62f

1 5