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不安げな表情を浮かべて、取り出したハンケチで頬に伝う涙を拭う少年―――ノット・ディスティレットがしているのであろう勘違いが愛おしくて、吹き出してしまった。
「良いでしょう、私は間違いを犯しませんし、任務ですからね。江戸川の言葉に従います。」
喜多村さんの言葉で箍が外れたのか、次々に従属の意を示す構成員達を一瞥してから、江戸川さんは「それでいいよ」とだけ呟いた。ぎこちなく固まった儘の空気が苦くて、重い。
「……泡沫は。泡沫も、首領が望むのでしたら、従います。」
「首領には感謝してる、幹部の貴方達にも。俺に出来る事があるなら、やらせて貰う。」
「あは、桜ちゃんってば冷たいなあ、まあ、良いよ。継承とか勝利とか、俺は別にどうでもいいけど、金の為なら言うこと聞くよ。此処は相応の報酬が貰えるし。」
沈黙を明るい声が破いた。声の主────喜多村暁臣さんは読めない笑みを浮かべ、集めた視線に返す様にひらひらと手を振って、首を傾けた。
思わず頭を抱えたい衝動に駆られて溜息を吐いたのと同時に、勢い良く扉が開けられて、けたたましい声が部屋を埋めた。
「ギリギリ!ごめん優、寝坊した!!」
不安を打ち消す為に、下唇を食みながら少し重たい扉を開けると、既に二人の人間が椅子に座っていた。
「、お、御早う御座います。綾小路さん、江戸川さん。」
「私の願いは“私達の途絶える事の無い継承“だ。私達は未来永劫、このヨコハマの地に鮮血の足跡を遺す。その為に、私達は前回の様な“失敗“は許されない。君達は充分知っているだろうけれど。」
「前回は事後処理が大変だったからね、幾つ偽装工作を使ったか。」
「否、そう言う問題じゃないだろ…。」
此処にいる人はみんな、聖遺物や儀式を憎んでいるのかもしれない、そう思えるほどに、その場の空気は重かった。……いや、でも、隣にいる女性は、何処か別の場所を見ているようだ。儀式への怒り等ではなくて、もっと、別の物を。その目はなんだか、何かに似ているようで、少しだけ見蕩れてしまった。
「本当にお声が大きいです!耳が取れちゃったかと思いました!でも、悪を滅してこその番犬部隊なら、マフィアの見つけたのならば即お掃除しなくてはいけませんよね!」
「君達殺意強いなあ!」
当の京さんは、両目を見開いて、「指揮長が悪だと云うのならば、斬ります!!」と、大声で答えた。真隣の八朔日さんは大声に耐えられなかったのか、両耳を塞いで睨んでいるし、周りの隊員も目を剥いている。指揮長は笑いながら「煩い!!」と同量の声量で返していた。比喩ではなく本当に、耳が痛い…。