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ヒトでないことを厭わしいと想ったことはない。所詮、命は生まれながらに隔たるモノ。仮令、同じ種として世にあったとて、わかりあえるとは限らない。望むのは、ただ強靱なる手足。オマエと共に歩めるように。あとは風の吹くまま気の向くまま。いつか同じ景色が見えたなら、通じる何かがあるだろう。
殺すに躊躇いがないのは、それが等価だと知っているからだ。突きつける刃の先、天秤の両端に載るは、おのが命と相手のそれ。いずれか墜ちて散る定めなら、そう易々と此の身をくれてやるわけにはいかぬ。どうせいつかは逝く身。惜しむほどのものでなかったとしても。今は、まだ。あの日の約束のために。
闘うことを棄てたのは、それで何も護れやしないと悟ったからだった。元より何かを壊し、誰かを殺すことしか知らぬ手足。抱きしめた相手さえ壊す両腕なら、幸せにしたいと願う誰かからは離れるしかなかった。それでもオマエは、この背を追って来たから。伸ばされたその手を、振り払える日はもう来ない。
戦女神と呼ばれるのが辛かったのは、その名にも務めにもおのれが相応しくないと知っていたから。元より戦を望んだこともなく、さりとて自軍を勝利に導けた例しもない。何のためにここにいるのか、何のためのおのれなのか。彷徨いながら答えを探し続けた。失せた記憶の中にこそ、それがある気がして。
女の中にあるものは、かつてあった日々の残骸だった。
知らずに味わってきた人の営み。
歓び、哀しみ、痛み、苦しみ、あるいはそこに存在するという実感さえも。
なにもかも失った先に待っていたのは、いつ終わるともない静寂と孤独。
誰かの望みに応えること。それだけが彼女に与えられた自由だった。
男の生きてきた道程は、身につけた業そのものだった。
生まれながらに与えられていた知恵、美貌、肉体。
それらを使い、望みのものを手に入れ、望まぬものは打ち砕いてきた。
老い、寿命、敵、あるいは友や恋人までも。
行き着く果てに見出したのは、決して人の手では奪い尽くせぬもの。
それの名を。
ただの人であるには、あまりにも彼は強すぎた。
大きく、図太く、強く、そして大雑把すぎた。
彼は、まさに人型の獣だった。
人として生きることも、死ぬことさえも奪われた男。
世に背き、人に背き、何かに目を向けることさえ拒み。
流浪の途にあった彼が、ひとりの子供を救ったとき。
運命が変わる。
何故、おのれが生きて在るのか。
とりたてて意味もなく、およそ価値さえないと想える此の命。
術に優れ、技を磨いたとて詮なきこと。
畢竟、余人の都合で誰かを殺すばかりの話。
そうして死なせて欲しい我が身は、滅びから遠ざかる。
どうして俺は此処に居るのか。
わからぬ叫びだけが虚ろに繰り返す。
物心ついたとき、すでに彼は恋をしていた。
亡き母に代わり、おのれを引き取ってくれた伯母。
それが宿世に許されたことと知っても、彼の胸は浮き立たなかった。
彼女にはもう、愛しく想う相手がいたから。
その相手を、憎むことができればよかった。
あらぬ父よりなお、慕わしく想わずに済んだなら。