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実は全く期待されていなかったことに気がついて項垂れる曦を、澄が呼んだ。
「藍宗主……、いや、藍曦臣、こんなに美しく咲かせてくれて……感謝する」
曦の心の臓が、とくりと跳ねた。
曦に向けられた澄の顔には、確かに笑顔が浮かべられていた。
出された小皿をそっと手に取り、澄は静かに息を飲んだ。
「……咲いた…のか…。…本当に…」
「ええ、とても美しい花です」
まるで貴方のようにーーーーと言いかけて、口をつぐむ。自分でも何てことを言いかけようとしたのか、驚いてしまった。
けれど、杏仁型の瞳を溢れんばかりに開いてじっと蓮を
朗らかな笑顔を見せることもなくなり、一人でいる姿をよく見かけた。
まだ細い肩に大世家の跡取りとしての責を負い、きゅっと結ばれた唇が彼の持つ真摯な覚悟を物語っているようで、曦は似た立場のものとして、何か彼を支えられないものかと秘かに思っていた。だが、実際には彼が一番苦労していた時に
「沢蕪君、元気になりましたね」
「……そうでしょうか」
「ええ、顔色もだいぶ良い」
閉じこもっている間彼らにどれだけ心配をかけたかを思い出して眉を下げる曦に、羨が軽い調子で、
「気にすることないですって。家族なんだから、いくら心配かけたっていいんです」
「……ありがとう」
ヨシコさんの天使AUの後日談が可愛くて、双傑の日常妄想を落書きさせていただきました。
お許しいただけたのでTLに放流します。
めっちゃ可愛いんですよ、天使の澄がね…ほんと…好きです☺️
本編もいっぱい描きたいシーンある
https://t.co/Cb2z1MiucJ
まずは叔父の方へ…と、掃き清められた石畳を歩いていると、ふよふよと紫の蝶が曦の頭上を旋回する。
澄の返信だ。
【蕾が開く頃、そちらへ伺おう】
それだけ告げると、蝶は空気に溶けた。
そうか。蕾だ。
ということは、
「君は、これから咲くんですね」
薄い玻璃のような殻からひょっこりと姿を表したのは、蓮の蕾と葉であった。
「江宗主! 生まれました! 蓮のつぼみです…!」
興奮のままに霊力を紡いで伝令蝶を雲夢に飛ばした。
寒室の窓から飛び出していく蝶を見送ると、曦はあらためて生まれたばかりの蓮花と向き合う。
ーーーーぴしり。
耳の聡い藍氏の、中でもとりわけ鋭い聴覚を持った曦だからこそ、その幽かな音に気がつけた。
ぎくりと、手にしていた書をそっと卓に下ろす。
懐から巾着を取り出すと、恐る恐る卵を取り出した。
「……あ」
卵のちょうど中心に小さくひびが入っている。
しばし考え、ふと昼間の羨との会話を思い出した。雲夢は今頃、もう雨に包まれているのだろうか?
するりと指が動き、静かに息を吹き込む。しっとりとやわらかな旋律がのびやかに、不知処の夜闇に流れる。
いつだったか雲夢を訪れた際に耳にした、子守歌だという曲は、卵に聴かせるのに相応しいだろう
笑いが止まらずにいると、先ほどよりも小ぶりの伝令蝶が窓から飛び込んできた。色は紫。間違いなく澄のだ。
「……?」
指先に受け取り、霊力を流すと、またひとこと。
【別に貴方を救おうとか、そういう大層なものじゃ、ない】
少し早口のその言葉に、今度こそ曦は声を出して笑ったのだった。