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野宮ゆりさんのイラストまとめ



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「イエルカ」⑫
海の血が深い底に漂い始めた。その温い流れを避けて魚たちは凍える水を追い、二度と甦らない永遠の季節の先に急ぐと決めた。イエルカたちもやがては身体のあらゆる穴から白い花房を咲かせて姿を消すだろう。新しい海が生まれるのだ…何もいないという、ヌイィーの知らない新しい海が。

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絵・深海
早すぎた夏の光と
なごりの雪は
同じ結晶だ
季節が足取りを
くるわせる時
誰の瞳にも
はっきりとみえる
かなしみがある
そんな時
多くの涙が結晶になり
宇宙に凍えて
しょっぱい味をした
氷の惑星になる
食べてしまいましょうと
君は星を砕いて
シロップをかける
僕はしあわせだと思う

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牛鍋国の
田中さん
すき焼き国の
パンダ君は
手に手を取り合い
しゃぶしゃぶ国へ
駆け落ちする
「多少の
肉の違いはあっても
同じ材料の世界ですもの」
「僕たちきっと
幸せになれるね」
「ええ
ポン酢やゴマだれという
新しい日が待っているのよ」
「生卵にはおさらばさ!」
絵 田中パンダ

7 67

闇よ、来い
朝まだきの
ひとり寝に
盲いたわれを
召しあげよ

澄む耳うつつに
めじろ鳴く
そとは何いろ
梅ほのか
ちるちるかほり
ほほにふれ
ゆかしなみだの
こころ絵よ
はるか彼方に
はる遠く

闇よ、恋
われなかぞらに
夢すすぐ
冥い手ざわり
恋ぶみは
よるべ無き身の
道しるべ

絵・甲斐千鶴

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カンナ色の車で
飛ばしてきた
大好きな海は
昔と変わらない
波のひかり
午後3時

温かいオレンジティー
あなたの真似をして
作ったわ
冷たい風に
香りを乗せる
天国に届くかしら

手のひらには
一枚の写真
声を聞きたい
紅茶が冷めても
あなたは
まだ微笑んで
最後の夏休みにいる
絵・甲斐千鶴

2 56

翡翠いろの
わき水溢れる
山椒魚の洞窟に
ふる雫は
もどり魂(こん)

かわせみや
ひすいかづら
あおばはごろも
青と緑の
瑞々しい生に
ひととき
飛翔したものらの
安らかな
死の帰郷

うつしよの衣を
脱いで
翡翠の流れに還る
その巡礼の数は
遥か昔より
那由多を越えて
星さながら
雫ふるふる

4 56

  絵 甲斐千鶴
あなたと出逢った
あの日の日記に
わたくしは一文字も
記していない

ただ一度の
名前のない冬の日
恋は咲いて
まばたきの間に散った

想いに涙あふれ
白い息の花をおさえた
あの時の袖は
雪色の絹
涙は氷の結晶
指は想い綴る筆を忘れ
冷えた心の絃を弾く

4 34

  絵 甲斐千鶴
冬の日の凍えが
それ迄の季節を
白く変えるほど
この想いは
月より透けて尚うつくしく
足蹴にされると
薄氷よりも儚く

わたくしは強くない

ふみに込めた想いを
水に流されるくらいなら
琵琶の音に綴り
とける雪のように
誰の目にも触れない
うたにいたします

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絵 甲斐千鶴

熱情にひかる言の葉

いろは白

蝋石えがくとこしえの雪

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