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『風に乗り、共に空を翔る』
それが我等の誇りであり、歓びだ――
《何度時代が巡ろうとも、我々は一度魂に刻まれたこの誉れを忘れること等到底出来やしないだろう》
「……ごめんなさいっ」
それが初めて聞いた彼女の声。落ち着いていて優しい声は、か細く小さくとも耳によく届いた。
ああ、やっぱり――
耳まで真っ赤に染め上げて、彼女は俯きながら走り去る。声をかけた時からなんとなくこうなる気はしていた。
すれ違い様に感じた甘い香りだけがその場に残る。
「朝のお祈りかい?」
祈りを妨げたのは朝日のように明るく澄んだ声。
振り返ると彼がすぐ側に佇んでいた。思わずその場にへたり込む。声が、出ない。
「ごめんよ、どうしても君と話がしてみたくて。
つい、邪魔をしてしまった」
《神は全てを施さない。与えられた機会は自身で掴むしかないのだ》
神よ、何故あのような悲しい夢をみせるのですか。
神よ、何故いつも彼を連れて行ってしまうのですか。
もう、これ以上繰り返したくないのです。
もう、背中を追うばかりの人生は送りたくないのです。
どうか、彼にご加護を。
どうか、私に勇気を。
どうか、我々にご慈悲を。
《祈り、願い、乞う》
いつもと違う国の、いつもと違うあの人の夢。
ようやく追いついた背中は、抱き寄せるとまだ暖かかったけれど、とても重くて。
迫る軍靴の音に、私は最早彼の遺骸を守る事だけを考えました。
そのときは、それしか無かったのです――
《全てを引き換えに、全てを無に。誰にも何も奪わせない》
『思わず、逃げてしまった』
だってこんなにも突然、何の前触れも無く目の前に現れるなんて……!
彼は間違いなく”あの人”でした。
少しだけ印象の違いに戸惑ってしまったのです。
夢の中の私はいつも、彼の後ろ姿や横顔ばかり追っていたから――
《夢で見た通り、彼は太陽の様な暖かい人だった》
「嘘を吐け」
開き直る悪友を手の甲で軽く小突いた。相変わらず悪びれる様子も無い彼は、少年の様な笑みを浮かべ楽しそうに肩を揺らしている。気取る相手が側に居なければ、この優男でさえこんなものなのだ。「まったく」と、つい釣られて苦笑いを浮かべた。
「ほら行くぞ。そろそろ見張りの交代だ」
「あの子もかなあ、キルギルからの補充要員ってのは」
ふと渡り廊下から中庭を行く後ろ姿が目に留まり、呟く。視線を感じたのか細い背中がこちらを振り向いた。
目が合ったので、にこりと歯を見せ軽く手を振る。
節操のない事をするなと小言が聞こえても、特に意に介す様子もなく男は上機嫌だ――
急行馬車に揺られ、ケフルへ向かう。
途中、短い夢を見る。
今まで何度も見た夢を。
青い鎧に蜂蜜色の髪、横顔からでも判る整った顔立ち――
まさに絵に描いたような勇者の姿。
ずっと思い出せなかった彼の名は、きっと私はもう知っている。
夢から覚めるとすでに夜明けは近く、城下は目前だった。
「困った事があれば、ラッフルズという者を頼ると良いだろう。賢く、勇敢な男だ。きっとお前の力になってくれる」
「ラッフルズ……」
どこか懐かしい響きの名前。記憶の奥底に眠る名を、呟けば思い出せるような気がした。
(思い出せない。でも……)
《きっと私は、その人に会わねばならない――》