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「……そか、いっそその指が砕けたら描かれへんようになるんか、試してみてもええかもしれへんなあ。口は噤みそうにないようやし……」
何も言わない伊織の顔を見て、ニヤリと嫌な笑いを唇に浮かべる。
力を入れられた途端、伊織はくっと小さな声を上げて痛みをこらえるように顔をしかめた。
怒っているような、泣いているような声。
無視しようと思ったんだ。
「あの…、あのコレっ、良かったら…どうぞ」
自分でもよく分からない。
せっかくのラッキーココアを彼に差し出してしまった。
「僕のラッキー、半分わけてあげます。だから…元気だしてくださいね」
鼻筋は通っていて、唇は薄い。
黒い髪と対称に肌の色素が全体的に薄いから、こうしていると妙に美少女じみた儚い印象を持ってしまう。
こうしてスケッチブックに落としている絵も、男性的な要素を描かなければ、少女の絵だと言っても判断がつかないだろう。
「……まあ、アホやけど……」
人を愛したことがない大神組若頭、大神奏。
ヤクザの抗争事件に巻き込まれた女子高生、天宮りお。
―――ふたりの恋の行方は?
裏の世界に咲く花は
白くて甘い香りがする
―――俺だけの花
誰にも触れさせない―――
面倒くさいと思いつつ、待ち合わせ場所に行った俺は、伊織の恰好を見て絶句する。
「……お前、これから祭にでも行くんか?」
「……いや、これからカズヤんちに行くんやろ?」
そう言い返す伊織は、深い色の着物を涼し気に着こなしている。
「ねえ、アキ」
洗面室を出ようとした彼の前で、
壁に体を寄せて、通せん坊の様な恰好をする。
「少し休めよ。俺が寝かしつけてやるからさ」
俺を見て、アキは少しだけ視線を上げる。
部屋に戻りたくても俺が邪魔で
通り抜けられないらしい。
俺はその顎を捉えて唇を寄せる。
「……あれ、なんや?」
俺達は黒っぽい塊を咥えている子猫と真正面から対峙してしまっていた。伊織がぎゅっと俺の腕をつかむ。
「……カズヤ、どないしたらええんやろ?」
「え? どないするって……放っておいたらええんちゃうの?」
次の瞬間、伊織は猫に向かって走り出していた。