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【9】母親はよほど無理をして入学させてもらったのか、しきりに校長先生に感謝していた。校長先生もぼくのことをほめてくれる。家に帰ってからも母が父に「よかったわ」と話すのを聞いて、どうしても言い出せなかった。 #向山貴彦 #金網の向こう
【8】学校が終わるまでは怖くてずっとうつむいていた。母親が車で迎えに来たら、すぐに泣き付いて学校を替えてもらうつもりでいたが、迎えに来た母親は校長先生と一緒だった。女性の校長先生はとても親切で「新しい学校はどう?」と聞かれて、とっさに何も言えなかった。 #向山貴彦 #金網の向こう
【7】「ジャップのガキがいる」とさっそく取り囲まれたが、ぼくはお金を持っていなかった。すると、リーダー格のラテン系の中学生にナイフを突き付けられて、あした金を持ってこないと刺し殺すと言われた。友達は誰もいない。助けはなかった。 #向山貴彦 #金網の向こう
【6】ただ、教室はましだった。昼になると、学校のカフェテリアに行くのだが、そこでは小学生のみならず、中学生も一緒になる。この中学生がみんなポケットナイフを玩具代わりに持っていて、先生の言うことなんておかまいなしに小学生にお金をたかって回っている。 #向山貴彦 #金網の向こう
【5】軍人の子供だらけの学校で、先生にも軍人関連の人が多かったので、とにかく攻撃的な雰囲気に校内が満ちている。喧嘩が始終起きていて、なんでも競争させられる。初日には「日本人が来やがった」と学校中で噂になり、国際色豊かな悪口を一日中浴びせられていた。 #向山貴彦 #金網の向こう
【4】金網ひとつ隔てると中はまったくのアメリカで、歩道、電信柱、消火栓、すべてがアメリカ仕様。交通標識も英語だった。アメリカ生まれのぼくは、小学校一年生まで向こうの学校に通っていたので言葉に違和感はなかったが、学校の雰囲気は普通の学校とかけ離れている。 #向山貴彦 #金網の向こう
【2】親が基地内の知り合いに頼んで、特別に入学させてもらったのだが、訳がわからないままいきなり米軍の学校「ペリースクール」に通うことになったぼくは混乱した。何しろぼく以外のすべての同級生は在日米軍人の息子や娘で、全校数百人の中で日本人はぼく一人だった。 #向山貴彦 #金網の向こう
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