//=time() ?>
燻る煙、焦げた肉の香り。
焼かれた土は、まだほのかにあたたかかった。
暗闇の中から眼をひらき、産声をあげる。
喉に絡む音は、擦り切れた息吹でしかなかったけれど。
あぁ、欲しい。
あれが欲しい。
あなたが欲しい。
凝る意識こそが、おのれのはじまり。
#はじめて好きになったのは
“はじめて好きになった相手はすでに故人”組な
顎人・雷閃・傲嵐・石斎ですが、
この中で異彩を放っているのが雷閃。
まぁ、彼の場合、愛した彼女は二度と戻らないが
厳密な意味では故人ではないし、
目の前で生きてもいるので記憶が薄れることもない
んでしょうが、それにしても間の楔が深い。
母を埋めた土は、爪のあいだに食いこんだままだった。
どれだけ膝を抱えていたのかもわからない。
薄暗がりの岩屋に、はじめて光が射した。
「あぁ、こんなになって」
抱きしめる腕の強さと膚のぬくみ。
あぁ、そうか。
このひとが、そうなのか、と。
そのとき、わかった。
#はじめて好きになったのは
目の前に火がともる。
轟々と唸る、炎。
途絶えていた鼓動の音だと、いつしかわかる。
灰みを帯びていた世界に色がつき、ぬくもりが通う。
震える手で弦を爪弾く。
はじめて唄を声にした、あの日のように。
さぁ、届け。
あのひとに届いて、そして。
願いは祈りに似ていた。
#はじめて好きになったのは
殷、と弦を弾く音がする。
それだけで、すべてが遠ざかる。
酒場のざわめきも、酔客のさざめきさえも。
空を裂く、叫び。
まるで遠吠えのような。
耳に染む詩と歌声。
あなたは、唄。
あなたの息吹、そのものが。
目をとじて酔いしれる。
あなたがもたらす、音の響きに。
#はじめて好きになったのは
襖をあけ、座敷を駆けて、広い背中にしがみつく。
「おう、おうおう」
胸から伝わる、低い声。
はりついた頬に沁みる、紬の膚と香の匂い。
ちくりと額を刺す散切は、先の先まで真っ白。
それでも。
あなたが好き、と胸に呟く。
返るのは、背中ごしの笑みでしかないけれど。
#はじめて好きになったのは
ガサガサした手のひらが指先を包む。
「おう、どうした?」
返り見る顔は高く、影に包まれて表情も見えない。
ただ木洩れ日のような光が粗い髪を透かして降るだけ。
ぽかんと見あげ、そして微笑む。
彼は似ている――大好きな樫の木に。
けれど木は手を繋いではくれないから。
#はじめて好きになったのは
考えてみれば、その先駆者が顎人で。
幼い頃の一成(カーシャ)は、それに気づいて顎人に裏返ったコップがもう一度、すべってひっくり返るくらいの慈しみを注ぐんだけど、やっぱり自身は置き去りのままだったという。