掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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元日未明のネオン街を並んで歩く。風俗と酒場を抜けると、ラブホがいくつか並んでた。「……ここ空いてるな」。隣の男が囁いた。新婚間もない医師の夫は当直だ。「行くか」。覚悟を決めて男に頷く。ラブホの裏手で男女が喧嘩しているらしい。夫みたいに私も当直勤務を頑張ろう。先輩巡査を追いかける。

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気づくと年が明けていた。アルコールの匂いに包まれ、ソファで寝ていた。「新婚の奥さんが気になりますか?」。若い女が笑っている。帰らないのはあいつも覚悟しているはずだから。そこでコールが鳴り響き、彼女は真顔で駆け出した。僕も眠気を振り払う。頑張ろう、当直勤務。彼女はナースで僕は医師。

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「煩悩が消えてくようだね」。その囁きに頷いた。大学の同級生の彼女のアパート。大晦日、添い寝しながら除夜の鐘に耳を澄ませた。「こら、消えてないじゃん」。豊かな胸に触れた手を、つねられる。煩悩じゃないからね。「なら何よ?」。これは愛。そっちは消えたの? 「……ううん。また火がついた」

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寝転んで、スマホを放る。大晦日、大学近くの私のアパート。いつか彼氏ができたなら、絶対やってみたかった。年替わりの「あけおめ」LINE。夏に初めて彼ができた。夢みたいに幸せだった。でも結局今年もLINEはできない。日付が変わる。「あけおめ、ことよろ」。添い寝の姿勢で私を抱き締め、彼が囁く。

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多忙で年末帰省せず、同郷の幼なじみの家で飲み、流れで初めてしてしまう。「……なかったことにしておくか」と彼が囁く。ううん25年の恋人未満を解消しよう。「つきあえば別れも覚悟しなきゃだぜ?」。恋人になんてならないよ。準備不足が祟ったね。女の子にはわかるんだ。来年、君はパパで私はママ。

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同郷の幼なじみとしてしまう。年末はお互い多忙で帰郷せず、鍋を囲んで家飲みし、酔った弾みで流された。心地よさを手放したくなく、25歳のこれまでずっと、生煮えの関係だった。……なかったことにしておくか? 「だね」。ベッドの彼女が微笑み囁く。「恋人未満の関係性、なかったことにしておくよ」

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聖夜のデートは楽しかった。だから彼の電話に大泣きした。「今日、元カノを偶然見た。俺まだ未練があるかもしれない」。今年もたくさん遊ぼうね――そう書いた年賀状を出した直後だ。あの電話は彼なりの誠意だろう。道化の私はもう一度、年賀状をしたためる。さよなら、元カノさんとの復縁を祈ってます。

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「クリスマス楽しかった。今年もたくさん遊ぼうね」。君の字に視線を落とす。本当に楽しかった。昨日、前の彼女を見かけるなんて、思わなかった。まだ未練があるかもしれない。直後に伝え君は泣いた。消印は一昨日。少し抜けた健気な君と続けよう。「年賀」と書かずに出された葉書を見つめ、俺は思う。

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ファンレターがきっかけだった。同い年の若手作家が彼になる。5年前の処女作は、切ない純愛。次作以降も、病に倒れた健気な少女が愛し抜かれるお話だ。「もう書けない」。半年前から彼の筆が止まってる。書いて、と私は懇願した。最期まで、小説は本音の吐露だと信じたいんだ。私の余命はあとひと月。

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「小説を書く君が好き」。最愛の彼女が微笑む。デビュー5年。作風が若い世代に支持されて、何冊かヒットを出した。彼女も読者の一人だった。「いつものような作品書いて」。もう無理だ。これまでみたいな話は書けない。「読みたいよ。難病少女が愛に包まれ死ぬ話」。病床で、余命わずかな彼女が願う。

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