掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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可愛いのになぜ彼氏がいないのよ?――女子大の同級生に訊いてみる。「……トラウマが」。高校時代の失恋とか? 「……クラスが壊れた」。え!? 一体何をしたっていうの? 「私は何もしてないよ。彼氏も作らずただみんなに笑っていただけ」。ならばなぜ? 「……工業高でクラス1人の女子だったんだ」

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母とともに祖母を看取る。美人で物知り、働きながらも完璧に家事育児をこなしたらしい。母には内緒で何度も悩みを相談した。「まずやってみよう」。前向きでシンプルな祖母の言葉に救われた。嗚咽する母の隣で悟られないよう涙を拭う。不器用で他責的な悲観論者。祖母を失い、毒親からの逃げ場がない。

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母が死んだ。大往生だ。「お祖母ちゃん、綺麗な顔……」。死顔を見つめ、娘が呟く。凛とした母だった。学もあり、家事は万能、定年間際は父より多く稼いでいた。努力を何より重んじて、頑張ろう、が口癖だった。私と違い、天賦の素養があったのだ。涙が溢れる。私は今日、ようやく毒親から解放された。

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「髪切ったんだ。また短髪か。色気ねえな」。高校への通学路、彼が笑う。昔は一緒に野山を駆けた。背の高い私が兄、彼が弟――よくそう間違われた。そろそろ受験、風邪には注意ね。耳の赤い彼に告げて先を行く。背丈はとうに追い抜かれた。合格後、髪を伸ばそう。私にもあるのかな、彼に伝わる色気って。

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美容院に行ったと聞いた。また短髪だ。「色気ない? 私にそんなの求めてないでしょ」。高3の彼女が笑う。小さな頃から男子のような髪型だった。一緒にゲームし虫を捕り、兄弟みたいに雑魚寝した。「風邪? 受験前よ、気をつけて」。本当に迂闊だ。通学路を先に行く、細い脚とウエストに、赤面する。

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「あいつに優しくされたんだ!?」。先輩の幼なじみが驚いた。はい。先輩、実は凄く女心をわかってますよ。「……話があると昨夜言われた。貴女を好きって報告なんだね」。多分違うと思います。なるべく傷つかないよう、私は優しく拒まれました。想う相手がいるそうです。男心がわからない子だそうです。

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「先輩とは幼なじみでしたよね?」。高校の後輩に尋ねられる。「好きな人、知ってますか?」。あいつ女心がわからないから、恋愛とは無縁だよ。「……私には優しくしてくれましたけど」。話がある、と昨夜彼に予告された。この子のことか。作り笑顔で私は思う。やっぱりあんたは女心がわかっていない。

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私の方が彼を好き――絶叫した妹に、ナイフで刺される。私は軽傷だったけど、心を病んだ妹は、以来虚ろに伏している。「優しいな。また笑いかけているんだね」。彼に頷き心で思う。妹の罪悪感を消さないためよ。正気になったら困るんだ。実は私はすり替わり。あなたが一目惚れした相手、双子のこの子だ。

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無表情の私の顔が、鏡の中で薄く笑う。違和感が確信へと移ろった。ずっと彼を好きだった。狂おしいほど隣の彼女が妬ましく、思い余ってナイフを向けた。その後の2人の消息は、朧気だ。そうか、彼女は鏡の世界にいたんだね。悔やんでる。許してほしい。微笑を湛えた双子の姉が、じっと私を見つめてる。

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つきあい始めた彼女と2人で高校近くの神社を訪ねる。「ずっと一緒にいたいです」。初詣で祈った彼女が愛おしい。日付が代わり新年だ。「おめでとう」。また彼女が囁いた。律儀だなあ。さっきも新年おめでとう、って言ってたじゃん。「だからこれはあなたのため」。知ってたんだ。誕生日が元旦だって。

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