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掌編小説(140字)@縦読み漫画(原案)配信中さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。絵はイトノコさんや春さんの作品。投稿が原案の漫画(studio.booklista.co.jp/series/b88a988…)。Amazonアソシエイト。サブ(@syouhensub)、Pixiv(pixiv.net/users/95883938
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彼は努力の人だ。春から都会の難関大に進学する。そういうところを好きになり、だから私の方から身を引いた。大卒後、大手に就職したこと、綺麗な彼女ができたこと。風の便りは田舎の私の耳にも届く。頑張って。でも無理にしがみついていないよね? 私は少し無理してる。まだ心が君にしがみついてる。

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大手への就職も綺麗な彼女も勝ち取った。残業し、寝ずにデートし、僕は都会にしがみつく。心身を5年で壊し、田舎の実家に出戻った。今の僕には何もない。「しがみつかなきゃ手に入らないものは続かないよ」。高校時代の元カノが、見舞いに訪れ苦笑する。そうかなあ。「だから私はしがみつかなかった」

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「結婚式の幹事団がお前のキュンな話ねえかって」。私の部屋で彼が訊く。高校も一緒だけど、交際は大学から。お互い大人でキュンな記憶はほとんどない。「え、これほかの子にあげたんだけど!?」。彼が書棚の小瓶に気がついた。見つかった! 高校の卒業式、親友に頼み込んで貰ってもらった第二ボタン。

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「高校生の私の写真ないか、って」。僕の部屋で彼女が尋ねる。結婚式の幹事団が余興用に探しているらしい。大学時代にバイト先で再会した。高校時代は意識もしてねえ。「そうだよね」と笑う彼女が、古いアルバムに手を伸ばす。「へぇ、私、こんなふうに笑うんだ」。卒業式後に隠し撮りした写真が1枚。

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土砂崩れで妻と家に閉じ込められる。2人とも大怪我した。「寒い。私が先に逝くみたい」と妻が呟く。死力を尽くしてにじり寄り、覆い被さる。「体温が温かい」。妻の不倫に気づいてた。いつか戻ると信じてた。事故なんかで逝かさない。僕は囁き、悔し涙で意識を失う。もう首を絞める余力も残ってない。

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土砂崩れで閉じ込められる。私も夫も怪我をして、家から外に出られない。因果応報だ、と自嘲する。夫の愛が物足りず、元カレと密かに関係してきた。寒い。そろそろ死ぬな、と思ったところで夫の体が覆い被さる。2日後、救助隊に救われた。本当に因果応報だ。体温を私にくれた優しい夫は、もういない。

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元カレがまた私を抱きに来た。高校の後輩で、お互い最初の相手だった。私の父が借金し、一家で夜逃げし破局した。風俗店で偶然再会したのは7年経った半年前。「また行きます」。私の誘いに彼が応じる。青臭い幸福は封印した。あと百万円で父が背負った借金を完済できる。私は別の客にも誘いをかける。

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「また来てね」。帰り道、LINEが届く。さっき抱いた風俗嬢だ。僕は高校時代を思い出す。初めては先輩だった。好きな異性と一つになるのは幸せだった。体よりも心が深く満たされた。7年経っても忘れられない。もう一度、僕らはやり直せないだろうか。切ない気持ちでスマホを握る。また行きます、先輩。

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「どんな時でもお前が好き」。優しい彼は嘘つきだ。でもいいや、と風呂上りに身を委ねる。彼が自室で隠した吸い殻に、紅がついていたのを切なく思う。そこで私の意識は途切れた。「どんな時でもお前が好き」。煙草を吹かせるあたいに向かい、彼が言う。嘘つきめ。彼から知らないリンスの移り香がする。

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「どんな時でもお前が好き」。優しい彼は嘘つきだ。でもいいや、と風呂上りに身を委ねる。彼が自室で隠した吸い殻に、紅がついていたのを切なく思う。そこで私の意識は途切れた。「どんな時でもお前が好き」。煙草を吹かせるあたいに向かい、彼が言う。嘘つきめ。彼から知らないリンスの移り香がする。

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