掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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年末に掃除を手伝う。彼が自室で帽子を握り、迷ってる。贈り主、元カノさんだね。捨てないと、私にも捨てられちゃうよ。「……なぜわかった?」。うちの会社でプレゼンし、ボツ案にこだわってた。「確かに未練がましいな……」。この人似てる、と思ったの。私も捨てるよ、元カレに貰ったこのシュシュ。

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年末の大掃除の手が止まる。自室の棚の黒い帽子。僕も彼女も野球が好きで、会社帰りに観戦し、贈られた。あれは春だ。今年は波乱の1年だった。振られたけれど捨てがたく、そっと元に戻しかける。「捨てなきゃ君が捨てられるかもよ」。勘づかれた。手伝いに来た今カノが、シュシュを揺らして笑ってる。

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会社帰りにバーで飲む。10年前の学生時代、彼氏未満のあの馬鹿と、よく訪れた。「お互い30歳で独身だったら結婚しよう」。そう言ってたのに、就職後、年下女と入籍した。私は今日で30歳。男なんて、と痛飲する。「結婚するか」。振り向くと、懐かしい顔がある。重婚じゃない。「1年前、離婚したんだ」

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「なぜ俺モテねえのかな」。クリスマスまであとわずか。高校の同級生が呟いた。中学からの腐れ縁。あんた、ゲームとネットショップを愛するコミュ障じゃん。「いやゲームや漫画で乙女心も学んでる」。……ならば訊くけど、聖夜にほしいの、ゲーム、金券、それとも私? 「ゲームか金券」。そゆとこだ。

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クリスマスまであと少し。高校でクラスの女子に尋ねられる。「ほしいの、ゲーム、金券、それとも私?」。ゲームかなあ。「……もう一度訊くよ。ゲーム、金券、それとも私?」。金券でもいいかも。「……もう一回だけ訊くけれど」。赤い顔した彼女を制する。あのさ、そもそも俺たち、つきあってたっけ?

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向かいの家の奥さんは、若くして夫を亡くした。俺は変則勤務の消防士。世話を焼くうち「秘密は守る。認知もいらない。子がほしい」とねだられた。我が家に娘ができたのは、彼女が男児を産んだ2年後だ。ある夜、彼女の家が失火した。「パパ行かないで」。幼い娘に小声で詫び、俺は息子を助けに向かう。

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高校帰り、消防車のサイレンに体がこわばる。「大丈夫?」。2歳差の彼に気遣われた。幼い頃、火事が起きた。業火に家が呑まれていく。「ごめんな」。そう呟き、優しいパパは、私をおいて駆け出した。家人は全員助かった。翌朝、遺体が発見される。向かいの家の焼け跡から、消防士だったパパの遺体が。

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人体模型で人工呼吸は学習した。高校の体育館での救命講習。次は心臓マッサージに挑戦だ。先日、同級生が彼女になった。何があっても絶対守る、と心に誓った。「心マは私が」。講師に彼女が手を挙げる。「私も守れるようにする」と笑い、耳元で囁いた。「……人形でも、胸元に君が触れると妬きそうだ」

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照れずにやれば命を救える――。救命士の一言で体育館の空気が変わる。高校での救命講習。先日私を口説き落とした彼が、挙手をした。「人工呼吸やってみます」。人体模型の唇に、唇を重ねてる。チャラ男かと思ってたけど、コイツ真面目でいいやつじゃん。解禁しようと心で思う。お預けしていた口づけを。

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目深に被った帽子を脱ぎ、高校の同級生が顔を覗かす。「……起きたら性別変わってた」。美少女じゃない! そのウィルス、都市伝説じゃなかったんだね。「……引かねえんだ」。そのうち治るよ。「男みたいなお前に相談できてよかったぜ」。とりま悩まず楽しもう。モロ好み。私、性的指向も女子なんだ。

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