掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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「良かったな」。高2の夏休み、幼なじみに笑顔で言われた。春からつきあい始めた大学生に、海への一泊旅行に誘われた。初めてを、きっと私は求められる。行くなと言って欲しくって、幼なじみに相談した。やっぱり私は姉か妹みたいな存在なんだね……。行ってくる。淡くて長い初恋からも卒業するため。

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「何で返信くれないの?」。17歳の幼なじみが膨れてる。ひと月ぶりに再会し、イルカのキーホルダーを土産で貰った。夏休み以来、LINEを返していなかった。制服から華奢な鎖骨が覗いてる。変わらない親しさで、話を続ける彼女の顔が見られない。「楽しかったよ。大学生の彼氏との、海への初のお泊り旅」

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年上の彼女は大らかだ。几帳面な僕とは好対照。大学の教科書はいつも忘れ、物もすぐになくしてしまう。交際半年。僕の家で雰囲気が盛り上がる。許可を得て、初めて服を脱がすと、ブラとショーツがバラバラだ。「あ、今日も間違えた♥」。先輩、大らかなのは好きですが、下着は揃えた方がよさそうです。

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年下の彼は真面目で礼儀正しい。扉は開けてくれるし、重いものは持たせない。交際半年。大学近くの彼の家で、初めてそういうムードになる。実はずっと期待してた。私は目を閉じ身を委ねる。「あの」。うん、何? 「脱がして触れてもいいですか?」。……そこで許可を求めるの、むしろ無作法じゃない?

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所用で初めて降りた駅の前。忘れられない曲を聴く。5年前の中学時代、淡く恋した女の子が、転校前に音楽室で奏ででくれた「別れの曲」だ。下手だと憎まれ口を叩いたことを、今も深く悔やんでる。僕に背を向け、若い女性がストリートピアノを弾いていた。あの日と同じ中盤で、なぜか女性は運指を誤る。

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駅前にピアノが置かれてる。中学時代、両親が離婚した。「ごめんね、ピアノも恋も諦めさせて」と母が言う。あれは幼い恋だった。転校前、ピアノで別れを伝えたのに、まだ胸に彼がいる。今度は自分の想いに別れを告げよう。まだショパンを弾けるかな。5年ぶりに奏でるのは、あの日と同じ「別れの曲」。

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中2の秋、両親が離婚した。家に居場所がなく、ピアノと同級生が救いだった。事情を言えず、荒んだ私を彼はずっと支えてくれた。優しくされる価値などない。そう感じ、憎まれ口を返してしまった。明日ママと家を出る。転校前、せめてピアノで恩を返そう。覚えたての「別れの曲」を音楽室で私は奏でる。

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中学の朝のHR。彼女の姿は消えていた。担任は「家庭の事情で転校した」と説明する。昨日の放課後、喧嘩ばかりの彼女から、音楽室でピアノを一曲聴かされた。「私にも女の子らしいとこあるでしょ?」。はにかむ彼女に、照れて、下手だと言ってしまった。後で知ったよ。あれはショパンの「別れの曲」だ。

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「できちゃった」と彼女が囁く。同棲7年。そろそろお互い30歳だ。子どもがほしいと言っていた。大好きだから逆に求婚できずにいた。潮時なんだ、と僕は思う。「嘘だよ、ごめん」。呟く彼女に別れを告げる。父親は元彼だろうか。多分、彼女の言葉は嘘じゃない。幼少期の高熱で、僕は子どもを作れない。

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できちゃった、と私は言った。大学から同棲7年。未だに彼に求婚されない。「……ほしかったんだよな。幸せになるんだぞ」。寂しげに彼は笑っている。自分の子どもじゃないと思ったらしい。嘘だよ、ごめん。「いいよ。俺、出て行くな」。未来が不安で2か月前、独身の元彼に相談した。本当は、嘘が嘘。

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