掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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大学の同級生に別れを告げる。この子とも半年のつきあいだった。高校以来、何人もの女の子に打ち明けられた。「格好いい」。元カノたちはそろって同じ言葉を口にする。だから何だ、と僕は苛立つ。そんなのは、生まれながらに備わった、単なる上辺の断片だ。誰一人、孤独な僕の心の裡まで見てくれない。

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「忘れちゃえ、あんな奴」。大学の先輩に抱き締められる。同級生の元彼が、悪い人だと知っていた。先輩も事前に忠告してくれた。だけど私は告白し、半年で捨てられる。先輩は優しくて、私を大事にしてくれるだろう。泣きながら自分は馬鹿だとしみじみ思う。まだ好きなのは「優しい人」より「悪い人」。

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女子大生になった春、年子の兄とキスをした。進学で先に上京していた兄を追い、私も一人暮らしを始めた頃だ。互いに秘めた想いは同じだった。「でも、世間には理解されないぜ」。兄の言葉に頷きつつ、切なくて泣きそうだ。外では「恋人」として振る舞えない。両親は再婚同士。私と兄は血が繋がらない。

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「兄貴、あの子誤解したと思うよ」。年子の妹が苦笑する。同じマンションの後輩が、さっき僕の部屋を訪ねてきた。大学の一つ下。彼女の好意は感じてる。遊びにきていたお前に出てもらって良かったよ。「ちゃんと言いなよ」。誤解じゃないだろ、言えるかよ。血の繋がらない妹と、愛し合っているなんて。

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私の住んでるマンションに先輩が越してきた。大学の2年生。大教室の講義で出会い、半年も片想い。エントランスで彼と言葉を交わすようになり、勇気を振るって手作り菓子を持参した。「はいどなた?」。呼び鈴に反応し、部屋の扉が開く。そういう人がいたんですね……。短髪の可愛い少女が立っていた。

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「スカートなのに、怖くて尻もちついちゃった」。同級生が照れている。高校の文化祭、彼のクラスのお化け屋敷が評判だ。慌てて私も行ってみる。教室の入口で、彼が入場者を案内してた。「脅かし役をやりたかった」。ぼやく彼に、残念だね、と笑ってみせる。よかったよ。お化けの「役得」、ないんだね。

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高校2年の文化祭。彼女の組は「メイド喫茶」をやっている。男子が大勢訪れて、ミニの衣装に鼻の下を伸ばしてた。「はい、ジュース券」。入口で金券を差し出しながら、彼女が不貞腐れている。くじで負け、裏方に回ったそうだ。「私もコスプレしたかった」。そうだよな、と頷いて、僕は内心ホッとする。

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「もっと家事や育児もやって」と妻が言う。わかってる。でも繁忙期で仕事が終わらないんだ。詰られ続け、妻の何を好きになったか見失う。終電で帰宅すると、3歳の息子を抱いて妻が寝ていた。起こさぬように米を研ぎ、洗濯物を折り畳む。今さらながらに思い出す。優しい彼女と添い寝した、至福の時を。

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3歳の息子の育児でへとへとだ。夫はほとんど役に立たない。部屋を片付け洗濯し、ご飯をつくってへたり込む。恋人時代、夫のどこがよかったんだっけ……。「ママ、おいしい。大好き」。ハンバーグを頬張りながら、息子が私に笑いかけた。その愛おしさに思い出す。この子によく似た夫の笑顔に恋をした。

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今回もプロポーズの言葉はなかった。大学から交際5年。彼とお盆に海に出かけた。ワンピースの水着にしたのは自信のなさの表れだ。卒業までは陸上部の長距離選手。今より3キロ痩せていた。自分磨きを私は誓う。また走ろう。多少の日焼けは気にしない。当時の外着のスポブラは、まだ自宅にとってある。

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