掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
novelup.plus/my/profile

フォロー数:10920 フォロワー数:14711

去年の夏、膝の故障で陸上部を退部した。「元気出しなよ」。幼なじみに慰められる。自棄になり、僕は街を遊び回った。半年前、病院の中庭で必死に歩く彼女を見かける。あいつ、こんな努力をしてたのか……。自分を恥じ、高校最後の体育祭で全力疾走しようと心に誓う。小3で大病し、以来彼女は車椅子。

57 569

早朝に走り込みしていたことを知っている。1年前、幼なじみは膝を痛め、陸上部を退部した。強がってるけれど、私は未練に気づいてる。高校最後の体育祭。彼は徒競走に手を挙げた。「絶対一番になってやる」。そう呟き、彼はスタートラインに身を屈める。頑張れ。例え順位が違っても、君は私の一番だ。

54 588

今夜はカレーうどんにした。昨日はカレーライスが夕食だった。ワンルームの食卓で、箸を止めてぼんやり思う。半年前、5年続いた彼と別れた。お互いに、口喧嘩を謝れなかった。結婚まで考えてたのに馬鹿みたい、と私は思う。今でも彼が、体に心に染みついている。一人分の夕食を、まだ上手に作れない。

38 522

狭い歩道のその脇を、猛スピードで車が抜ける。5年続いた彼女とは、近くで何度もデートした。この子と結婚するのかな、と思ってた。半年前、些細な喧嘩を拗らせて「友だちに戻ろう」と言い合った。もう隣に彼女はいない。そろそろ車道寄りではなく、意識せず、歩道の真ん中を歩けるようになりたいな。

47 433

元カノは営業部の相方だ。1年前、お互い好きな人ができ、笑顔で別れた。得意先から直帰中、不意の雨に襲われて、近くの我が家に彼女を誘う。「雨宿りでも、今カノに誤解されるよ?」。実はとっくに振られてる。でもそうか。お前こそ今カレに誤解されるな。「……着替え貸してね。先月、私も失恋した」

52 652

営業の仕事で遅くなり、直帰途中、雨に降られる。同僚の元彼も、私も濡れた。「うち近所だから着替えてく?」と彼が言う。1年前、お互い好きな人ができ、3年の交際は破局した。今カノに誤解されるよ? 「平気。あっという間に振られたよ」。……それはむしろ平気じゃない。振られたんだ、私も先月。

55 708

高校の夏休み、部活の後輩に告白される。「好きです、先輩。同級生にいつまで片想いしてるんですか……?」。少し待って、と僕は答えを留保する。2学期初めの昇降口、片想いの同級生が別の男子に告られてるのを見てしまう。僕の方が先に好きになったのに……。未練を断ち切りたくて、後輩の手を握る。

36 339

秋の初めの校舎裏、高校の部活の同級生が、後輩の女の子と寄り添ってる。夏休みに告られて、最近つきあい始めたらしい。私の方が先に彼を好きになったのに……。「俺への答え、貰えるかな?」。俯く私に別の同級生が囁いた。2学期最初に告白され、少し答えを躊躇した。未練を振り払おうと、私は頷く。

36 339

副部長の私の横で、男子の部長が明るく挨拶している。それがむしろ切なくて、堪えきれず涙がこぼれる。高校の水泳部の引退式。もう一緒に泳げない。締まった体を見られない。部長が私の背をさする。ありがとう。私、本当に愛してたんだ。涙で霞んでよく見えない、向かいに並ぶ後輩部員の彼女のことを。

31 366

高校の水泳部の引退式で、男子の部長が感謝を述べた。続いて話した女子の副部長は、まるで涙が止まらない。部長が副部長の背中をさすってる。やっぱり2人は恋人なんですね……。塩素の匂いを感じながら、私は胸が苦しくなる。もう先輩の水着姿は見られない。大好きでした。同性の、副部長の体も心も。

36 419