掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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16歳の冬、母に首を絞められた。再婚相手と私の関係を疑われた。母は心を病んでいた。今も私を殺害したと思い込み、閉鎖病棟を見舞うたび、亡霊を見たかのように許しを請われる。「母さんの妄想は治らない」。私の隣で俯く継父の手を握る。ごめんねママ。2年前の最初の疑念だけ、妄想じゃなかったの。

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2年前、私は娘を殺してしまった。彼女は当時16歳。私の再婚相手に色目を使ったように見えた。背後から首を絞めたところで意識が飛んだ。夫は変わらず私に優しい。あれは妄想だったのか。今日も手を組み必死で彼女に許しを請う。「ママ……」。成人した娘の幻影が、閉鎖病棟の窓の向こうに立っている。

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「好きなヤツとかいるの?」。放課後の部室で高校の先輩に尋ねられた。あの歌手もタレントも大好きです、と私は答える。先輩はなぜか呆れたように俯いた。「……恋してるとか、そういう意味なんだけど」。あれ? そっちは伝わってると思ってました。ずっと返事を待ってるんです。どこかの鈍い先輩の。

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彼女は彼の車で事故に遭い、2年前、両足が不自由になった。毎週末、療法士の私が勤める病院に、彼に連れられ訪れる。初めてのリハビリ時、必ず回復させると心に誓う。変わらず彼女を愛する彼の視線が、最近私に突き刺さる。彼には悟られてしまったらしい。私が同性愛者で、彼女に一目ぼれしたことを。

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2年前、彼の車の助手席で、事故に遭う。今も上手に歩けない。仕事が休みの週末に、彼は欠かさずリハビリに来てくれる。まだ愛されてると思ってた。ある日、私は気づいてしまう。そうか、単に後ろめたくて言えないんだね。「あと一歩、頑張りましょう」。彼の視線のその先に、私を励ます美しい療法士。

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大学の先輩と結ばれた。娘がお腹に宿った頃、浮気され、別れて田舎に出戻った。高校時代、元彼と通った喫茶店。3歳の娘とケーキを食べる。その彼が、店に偶然現れた。久々の帰省だそうだ。彼が連れた5歳の息子に睨まれる。そっちは夫婦円満なんだね。「パパ、この人なら死んだママの代わりでいいぜ」

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久々の帰省先で5歳の息子と喫茶店の戸を開く。高校時代の元カノが幼い娘を連れていた。結婚したんだ。「正確には『してた』かな」。2年前に離婚して、出戻っていたらしい。「あなたの家庭は順調そうね」。実は僕も過去形だ。なあ息子よ。3年前に死んだママ以外と、パパが恋することに抵抗あるかな?

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高校の男友達が不機嫌だ。電話中、幼なじみがずっと「推し」の話をしていたらしい。「俳優なんて手が届かないのに。女子ってみんなそんなもの?」。私は身近な人を好きになるかな。「だろ? 昔から馬鹿だったけど、なんか苛立つ」。どうやら私は諦めた方がいいようだ。ね、その気持ち、焼きもちだよ。

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高校のクラスの女子が憤慨してる。下校中、幼なじみが胸の大きな女の子を見ていたそうだ。「ね、男子ってみんな巨乳好きなの?」。いや僕は違うけど。「当てつけだよね、私への。腹が立つやら悔しいやらで……何だこの気持ち」。僕は小ぶりが好きだけれど、諦めた方がいいらしい。その感情、嫉妬だよ。

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テレワークの昼休み、自宅で大きく伸びをする。「また肩と首が凝ってるの?」。半同棲の彼女が笑う。ずっとパソコン見ているからね。「少し揉んであげようか」。首筋にふれた彼女の両手を慌てて抑える。やめてくれ、午後に仕事ができなくなる。お前、知っててやってるだろ。どこが僕の感じるところか。

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