掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)。リンクは固定ツイートご参照。原案の縦読み漫画(studio.booklista.co.jp/series/b88a988…)も配信中。
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私のどこが好きかと彼に聞く。「思いやりがあるところ」。薄く笑って私は黙る。彼の気変わりを知っている。知っていることを薄々彼も感づいてる。はっきりと指摘しない私の振る舞いは「思いやり」と呼べるのだろうか。「君は僕のどこが好き?」。ふいに問い返されて私は答える。思いやりがあるところ。

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昨夜、彼が事故死した。登校して担任から現場を聞く。彼の家とは反対方向。またあの子と会ってたんだね。半月前、彼の気変わりに感づいた。授業中の視線の先にはあの子がいる。すでに一線を越えたらしい。別れよう。昨日、泣いてそう決めた。何も知らないあの子が、愛憎混じった涙を流す私を見ている。

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朝の教室。彼の机に花束が添えてあった。「明日言うよ」。昨夜の彼の台詞が蘇る。半月前、私から誘いをかけて彼と寝た。「お前を好きだ」という彼に、昨日、彼女と別れてほしいと懇願した。その帰路、交通事故に遭ったらしい。泣けない私は、何も知らずに泣き崩れている彼女の背中を、ぼんやり眺める。

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彼が前に座る女子の姿を見つめてる。高3で同じクラスの隣になった。半年前、売り言葉に買い言葉で喧嘩別れ。悔やんでいるけど、彼は視線も合わせてこない。やっぱりもうダメなのかな。翌朝、私は半年ぶりに髪を後ろでくるっと束ねる。前の席の彼女と同じポニーテール。彼は私の想いに気づくだろうか。

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半年前に別れた彼女が隣の席になった。高3のクラス替え。少し未練もあるから、やりにくい。視線を正面に向けてると「へえ。好み、変わらないんだ」と彼女が小さく呟いた。前の女子を眺めてたわけじゃないんだけれど。翌日、彼女は懐かしい髪型に変えてきた。前に加えて、今日から隣もポニーテール。

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高3に進級した。片思いしてた先輩と同じ教室だ。放課後、よくここから外を眺めていた。卒業直前、先輩は弓道部の同級生に告白する。意外だった。彼女との接点が思い浮かばず、なぜだろう、と泣きながら考えた。何気なく窓の外に視線を向ける。そうだったんだね……。校舎の裏手に弓道場がよく見えた。

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中2から5年連続。今年もうるさい幼なじみと同じクラスだ。「運命だねえ」と彼女が笑う。お前が近くにいるから恋の一つもできないよ。「あんたに彼女がいないの、私と関係ないでしょう」。大いに関係あるんだけれど。「どういう意味?」。ほかの子を好きになりかけても、うっかりお前と比べちゃうんだ。

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北国から上京したてで、大学の入学式への道すら迷う。会場の同級生はみんなキラキラだ。私は都会でやってけるかな。緊張し、背伸びしてると、隣の男子が書類を落とした。「悪りっす」。聞き慣れた故郷の言葉。早くもなんだか懐かしい。拾った書類を笑顔で返し、えふりこぎはやめにしようと心に決める。

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友達に彼女を紹介される。密かに交際していた高校時代の元カノだった。お互い初対面を装ってやり過ごす。その夜、久しぶりに彼女から電話があった。「彼には昔のことを黙っていてね」。わかっているよ。だけど正直、相手が「彼」で驚いた。「……私も最近自覚したんだ。自分が両性とも愛せるんだって」

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社会人2日目がやっと終わった。帰り道、就職3年目の彼と合流し、食事する。緊張で胃が痛い、と愚痴をこぼすと「俺に永久就職しちゃいなよ」。今どき、そういう口説き文句は流行らない。就活の苦労、知っているよね? 彼は苦笑いして頷きながら、言葉を変えた。「副業で、俺の嫁さんやってみない?」

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