掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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不覚にも一目ぼれした。1年前、受験にしくじり通い始めた大学予備校。彼は進学校の出身だ。県立卒の私とは偏差値が10違う。恋心に蓋をして、必死で講義についていく。「そんなに行きたい大学あるんだ」。うん、そうよ。何とか追いつけた。鈍いあなたに一つ忠告。同じ大学、絶対滑っちゃ駄目だからね。

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「恋愛? 今はどうでもいい」。自習室で彼女が言った。僕は男子校の進学校、彼女は普通の県立出身で、予備校で知り合った。お互い一浪中であとがない。とはいえそんなに根詰めて、お前、一体どこの大学狙ってるんだ? 「教えない」。何でだよ? 「鈍い誰かと同じキャンパス歩きたいのが、癪だから」

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もう別れる、と彼に言う。女の意地で、嫉妬が理由と明かさない。元カレは高校の後輩と仲良しだ。美少女だもんね、私がいても惹かれるか。「先輩と何かありました?」。後輩に尋ねられる。言うもんか。「元気なく、最近恋愛相談乗ってくれないんです」。……言わなけりゃ。嫉妬は誤解で、戻りたいって。

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本命チョコを貰えなかった。「あんた、脈ありだって言ってたじゃない?」。幼なじみに笑われる。バレンタイン翌日の、高校への通学路。言えないけれど、お前に好かれているかと思ってた。「仕方ない。残りあるから一つあげるよ」。うん? これさ、昨日お前が配ってた義理チョコと、少し包装違わない?

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高校の部活の先輩が大好きだ。鈍いから、きっと想いは通じてない。バレンタイン、同じ部活の男子みんなに手作りチョコを手渡した。「あのさ」。部活後に先輩に呼び止められる。もしかして義理を装い伝えた想いに気づいてくれた? 「俺だけ数が2個多く、間違ってたぞ」。……先輩、やっぱり鈍いです。

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「はい先輩」。バレンタイン、高校の部活の後輩からチョコの包みを渡された。脈ありか、と期待して周りを見ると、男子はみんなもらっている。やっぱり義理か、小悪魔め。ため息ついて、手作りチョコを頬張った。「お前だけ特別だ」。部員の一人が口を尖らす。いや同じだろ? 「俺たちよりも2個多い」

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高校の同級生が彼氏になって3か月。毎晩LINEで会話する。「俺の事どう思う?」。知ってるくせに。もう寝るね。私は呟き、通話を切らず布団に潜る。スマホから、彼の寝息が聞こえてくる。そろそろ寝落ちしたのかな。恥ずかしいから、私も寝言を装って、質問への答えを返す。あなたのことが大好きです。

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「シナモンラテで大丈夫だった?」。高校の帰り道、彼女とカフェに立ち寄った。交際して1か月。僕が探した客席に、彼女がトレーを運んでくる。大丈夫、と僕は笑って頷きながら、注文を彼女に委ねたことを後悔する。以前、悪友が言っていた。シナモンラテが好物だって。まだ心にいるんだね、元カレが。

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結局あいつとつきあった。中学以来の男友達。互いに元カノ・元カレすらも知っていて、最初から夫婦みたいに遠慮がない。「悪い。美術の教材費、2千円おろしといて」。夜まで部活の彼からカードを渡される。さすがにこれはないんじゃない。聞き忘れたATMの暗証番号。迷った末の正解は、元カノの誕生日。

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2歳下の弟が、彼女を初めて家に連れてきた。一週間後、車に跳ねられ、あっけなく弟はこの世を去る。泣きじゃくる彼女を支え続けてきた。一周忌、2人で墓を参った後、彼女に想いを告げられる。「許されるかな……」。呟く彼女を抱き締める。許されないのは僕も同じ。一年前、弟の恋人に一目ぼれした。

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