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「ホワイトデーに本命スイーツってありかな?」。クラスの男子に相談された。ありじゃない、と私は返す。そういう相手がいるんだね。勇気がなく、バレンタインに何もあげずに良かったよ。で、その子にチョコはもらったの? 彼は苦笑いし首を振る。「……そいつ、僕にも甘いものにも興味がないらしい」
春には卒業式を思い出す。直前、片思いの彼にボタンをねだった。モテていたから事後では無理だと考えた。それを、事情を知らない幼なじみに奪われる。うっかりボタンをなくしたそうで、代わりに自分の制服につけていた。式後、別のボタンを返される。あれから5年。私は今、幼なじみと同じ名前でいる。
後輩が壇上で会釈した。卒業式の体育館。彼女は僕の次の生徒会長だ。放課後の生徒会室で2年間、毎日のように顔を合わせた。いつの間にか特別な存在になってたのに、想いをきちんと言えなかった。人前で話すのは苦手な彼女が、朗々と送辞を読んでいる。頑張れよ。式の後、僕も勇気を奮うと決めたから。
出会いは大学の時だった。バイトしていた塾の教え子に告白された。奇麗な顔した五つ下の高校生。何度か断り、就職でバイトを辞めた。再会したのは赴任先の高校だ。いけないと思いつつ、拒み切れない。朝の教室。制服姿の彼が私を見てる。昨夜のキスの痕跡をタートルネックで隠した私は、一瞬彼を睨む。
結局、2年間も片思いして卒業だ。彼には奇麗な彼女がいて、入り込む隙もない。高校の屋上で、このまま死んじゃおうかなと遠くを眺める。その時、ふいに名前を呼ばれた。「彼女に振られた」。彼が憔悴しきってる。失恋で死ぬのは馬鹿じゃない? そう言って彼をハグする。私もやめよう。まだ死なない。
「ごめん、酔い潰れた彼の世話させて」。振り向くと、先輩の花嫁が笑ってた。新郎と新婦で別の三次会。私は高校の先輩だった新郎の会に招かれた。華奢な彼女が彼を抱える。頬へのキスを見られただろうか。別れ際、店の前で新婦が微笑む。「頬で留めてくれてありがとう。今後も脆いコイツをよろしくね」
バレンタインから2週間。今さら彼に「チョコは義理?」と確認された。傷つくのが嫌で頷くと「ホワイトデーに本命返すか迷ってた」と彼が呟く。え、それって私を好きってこと? 「……そうだけど、お前がくれたの義理なんだろ?」。私は深く息を吸う。チョコでは届かなかった甘い思いを打ち明けよう。
会った瞬間気がついた。婚約者と訪れた挙式場。ウェディングプランナーになった後輩と7年ぶりに再会した。高校時代、脆い彼女を支えられる自信がなく、想いに気づかぬふりをしてた。垢ぬけたスーツ姿の彼女を眺め、いい恋しているんだろうなと想像する。奇麗になったな。次はお前が幸せになるんだぞ。