掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)。リンクは固定ツイートご参照。原案の縦読み漫画(studio.booklista.co.jp/series/b88a988…)も配信中。
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「幼なじみから恋人になって初のバレンタインか」
「……はいはい、あげるよ。何がいい?」
「本命は手作りだろ?」
「あのね、手作りっていうのはね」
「塊溶かして型に流すだけなんだよな」
「よく知ってるね。昔もらったの?」
「もらってない」
「本当に?」
「……見栄張るため一度だけ自作した」

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引退後のパートリーダーに2年の後輩を指名した。入学時、彼女は楽器初心者だった。厳しく指導したのにへこたれず、いい音を奏でるようになっていく。来月は僕らの卒業式。吹奏楽部は送別の曲を披露する。胸がきゅっと痛くなる。それで初めて気がついた。好きなのは、彼女の音色だけじゃなかったんだ。

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片思いの美少女が星やハートのチョコ型を選んでいる。同性の私にバレンタインチョコをくれるそうだ。胸が高鳴ったけど、友チョコだってあるもんね。「そうだよ。星型は友達としてのあなた用」。やっぱりそうかと俯くと、彼女は悪戯っぽく微笑んだ。「本命としてのあなたのためにはハート型で作ります」

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「チョコ型を見に行くからつきあって」。仲良しの級友に誘われた。品定めする横顔を眺め、私もこんな美少女に生まれたかったなと思う。片思いして1年半。同性に告白する勇気を持てない。バレンタイン、誰にあげるの? 切ない思いで尋ねると、小首を傾げて彼女は言った。「あなた以外に誰がいるの?」

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夫が女子大生と恋に落ちた。一人息子は自立済み。半年後、私は離婚届に判を押す。新妻を得た矢先、彼は事故で亡くなった。未亡人は22歳。親族に反対された恋だから、今日の葬儀も人はまばらだ。不思議と恨みは消えていた。同じ男を愛した相手だ。2人で暮らそうか? 憔悴した喪服の彼女が小さく頷く。

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3学期の図書委員は意外だった。やんちゃな同級生が手を挙げた。あんた、読書なんてしないでしょ? 「ジャンプは読むぞ」と胸を張る。放課後、今日も図書室で勉強中、カウンターで笑う彼に気づく。どうせジャンプだ。活動中に漫画読んだら叱られるぞ。「いや、告れるかなって、お前の表情読んでいた」

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彼女は僕の全てを受け入れた。学生時代の同棲相手。自分が愛されるとは信じられず、浮気をしては許しを乞うた。「仕方ないよ」。そのたびに寂し気に彼女は微笑む。ある日、この関係の正体に気づく。他人を使った自傷行為。目的は2人とも自己確認だ。歪さに何度もえずき、僕は彼女の前から姿を消した。

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「君の子だよ」。大学時代の恋人と偶然会った。大きなお腹を抱えてる。3年間同棲し、破局後、誰かと結ばれたと聞いていた。僕はうろたえ押し黙る。「冗談よ」と彼女が笑う。そうだよなと思いつつ、甘くて苦い気持ちが蘇る。「私、振られてよかった。今でも君は誰と寝たかすぐには思い出せないんだね」

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上映開始10分で彼は寝息をたて始めた。あまり眠れてなかったらしい。「片思いの同級生に告ったけど、玉砕した」。昨夜、私のスマホに電話があった。幼稚園からの知り合いだ。前売り券の処分役を引き受けた。右肩を彼の頭に貸しながら、動悸が少し早くなる。おかしいな。この恋愛映画のせいに違いない。

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「みっともないからやめなさい」。バレンタインまで1週間。辺り構わずチョコがほしいと口にしてると、クラスの女子にたしなめられた。中学以来の腐れ縁。わかったよ……。でもゼロってのは惨めだから、お前、義理チョコ一つぐらいは恵んでな。「あげないよ」。え? 「義理チョコなんて、あげないよ」

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