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手が冷たい人は心が温かく、逆も言えるんだって。そう話すと、彼は「ふうん」と生返事を返した。交際2年半。最近、彼の心が離れていくのを感じてる。切なくて、勇気を奮い、本心を訊いてみた。「心配するなよ」。彼は微笑み私の頬にそっと触れる。その手のぬくもりに、憶測は残酷な確信へと移ろった。
「PCの閲覧履歴、見たのかよ」
「あんたの性癖、広くて引いたわ」
「いや……あれはお前と交際前に見たやつで」
「そうだったかな」
「お互い17歳で思春期だ。大目にみろ」
「幼なじみが恋人に変わった後は見てないの?」
「もちろん」
「本当かな?」
「JKモノしか見てねえよ」
「それは見てるんだ」
昇降口で足が止まる。夕方から雪の混じった雨が降り出した。「入ってく?」。背後から女友達に傘を差し出される。目撃されたら彼に誤解されるぞ。「1か月で振られちゃった」。え、あんな必死で口説かれてたのに? 「ほかに気になる人がいると見透かされた。見られたら、誤解じゃなくて納得されるよ」
乾燥で唇がひび割れる。放課後の教室。元カノがリップクリームを差し出した。「今さら照れるな」と笑われる。僕の浮気が原因で1か月前に別れたばかり。未練があるからさばけた彼女の態度が辛い。やり直したい。そう言いかけたところで彼女が小さく囁いた。「乾くまでは誰かとキスしちゃ駄目だからね」
「お前とは初めてだから緊張した」。キスのあと、彼がポツリと呟いた。うぶだねえ、と私は笑顔をつくる。2年片思いし、元カノと別れたところで結ばれた。唇に触れながら耳たぶを弄ばれる。上手なキスだね。吐息と同時に涙をこらえる。あなたの最初は「お前と」だけど、私は「あなたが」初めてなんだ。
在宅勤務が再開された。チームの会議もPC越し。片思いの彼に会えないのは寂しいけれど、正面から見つめられるのはPC会議ならではだ。「大丈夫?」。プレゼンを中断し、彼に声をかけられた。資料は見てるし、話もちゃんと聞いてます! 慌てる私に彼が微笑む。「何かあったの? 顔赤くて息も苦しそう」
うわ、と思わず声をあげた。勉強しながら聴いていた深夜ラジオの投稿コーナー。僕のあだ名と「大好き。受験頑張って」とのメールが読み上げられた。「兄貴うるさい」。気づいた妹が寝間着姿で抗議に来る。顛末を説明すると「モチベ上がるね」と笑われた。誰なんだ、ラジオネーム「溺愛シスター」って?
テレビを消し、青いヘッドフォンをして登校する。片思いの彼は私と同じ2月が誕生日。近づきたい。そう願ったのに今日も結局進展なしだ。帰り際、昇降口でため息つくと「一緒に帰る?」と呼び止められた。彼の腕には青の時計。同じ番組見てたんだ。思いが叶う、2月生まれのラッキーカラーは今日は青。
「夢は好きな人のお嫁さん?」
「そうだよ。仕事もするけどね」
「お前、案外可愛いな」
「あんたの嫁とは言ってない。好きな人の、だ」
「元幼なじみの俺以外にも候補がいるの?」
「予定は未定」
「おっかないこと口にするなよ」
「未定の誰かに怯えるより、今も未来も変わらず私に好きでいさせろ」