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「え、全滅?」。予備校で知り合った高3女子に驚かれる。ああ一浪確定。「誘惑に負けぬよう、夏からあれだけ一緒に勉強したのに?」。確かに遊びに行かなくなった。平日も休日もずっと一緒にペンを握った。「だよね。ならば何に気をとられてたのよ?」。……言えねえよ。いつしか誘惑されてたなんて。
高校の同級男子が袋を持ってる。「義理チョコばかり9個貰った」と頭を掻いた。モテるじゃない。「義理のお返しだけでバイト代が吹っ飛ぶ」。じゃ、私からも一つ追加。「さらに出費がかさむだろ」。私、お返しいらないから。「え、いいの?」。うん。あんたが義理で返すなら、私はそんなのほしくない。
「義理には義理で返せばいいのよ」。気の置けない同級女子が、笑いながら僕に言う。高校帰りの洋菓子店。彼女も含めてバレンタインには10個貰った。安い飴を彼女がごそっと籠に放り込む。あのさ、一つ高いの混ざってるけど。「私の分」。助言と違うじゃん。「違わないよ。私のは義理じゃないんだから」
バレンタイン、20歳の彼に最初を捧げた。終えた後、「ホワイトデーには3倍返しするからな」と囁かれる。愛されてると感じたけれど、お返しはそんなにいらない。そこじゃない、うん、そっち――。最中に、私は何度も呟いた。緊張し、へとへとだった。慣れてるふうを装って、あなたも私と同じで最初だね?
「ホワイトデーのお返しいらない」。20歳の彼女が俯いた。ひと月前、あんな贈り物くれたのに。もうさめた!? 「相場は3倍返しなんだよね?」。らしいね。「私がもたない」。なるほど。じゃあ等価にするよ。それでも不要? 「……いる」。バレンタインに彼女は言った。「あげるよ君に、私の最初を❤」
彼とは続かなかった。高校の隣のクラス。何度も「好きだ」と囁かれた。でも3か月で別れを告げた。「何で俺じゃ駄目なのかな」。別れ際に尋ねられる。校舎から下校する彼が見えた。答えのヒントは隣だよ。寄り添う同級女子を腐れ縁と言っていた。私みたいに気づいてね。彼女の気持ちと、自分の本音に。
わかったわかった慰める、と苦笑する。腐れ縁の同級男子がまた振られ、高校帰り、カラオケに誘われた。失恋ソングを絶叫してる。「何で俺じゃ駄目なのかな……」。繊細さに欠けるからでしょ。「お前は貰い泣きするほどナイーブなんだな」。ほらガサツ。これは悔し涙だ。何で私じゃ駄目なのかな、って。
「出稼ぎの天涯孤独の風俗嬢」と女は笑った。彼女に連れられ上京する。寂しげに「自分を捜す?」と繰り返された。僕は濡れて倒れてた。記憶を失い自分が誰かわからない。捜さない。知れば彼女を独りにさせる。日銭を稼ぎ、水商売から足を洗った彼女に寄り添う。浜辺で拾われ13年。また震災の春が巡る。
息を飲む。込み合う駅の反対ホーム。彼がいた。入籍翌日、姿を消した。泣いて浜辺を捜し回った。私と同じ、東京に出ていたんだ。名を呼びかけて思い留まる。弱い私は待てなかった。失踪を申し立て、家裁は認めた。「どうしたの?」。隣の再婚相手に尋ねられ、何でもないと首を振る。あの震災から13年。
10年ぶりに再会すると、幼なじみが男になってた。「異性と見ていないって言ってただろ?」。手術し戸籍も変えたらしい。「高校時代、何となく距離を置かれた。でもまた一緒につるめるな」と笑われる。同性のお前のことを受け入れる。僕も過去に決別する。さよなら、照れて嘘をついた僕。さよなら初恋。