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「君にはどっかに線でも見えるの?」。高校一の美少女が僕に言う。彼女は一軍、僕は三軍。そう呟き、たしなめられた。外見も能力も、一軍たちには敵わないだろ。「ああそうか。わかったよ、私と君の違うとこ」。だろ? 「線があるね」。うんクラスに。「違うよ、君の心にだ。自分で勝手に引いている」
クラスの男子に「好きだ」と言われた。高3の春だった。私は少し考えて、桜咲いたらもう一度言って、と笑顔で返す。今頷けば、優しい彼はきっと受験に身が入らない。頑張って。本当は大好きだから、私も頑張る。残り1年、運命に必死で抗う。私は桜を咲かせられるかな。昨日、主治医に余命を言われた。
高校は楽しくて、だからこそ卒業式でみんな涙ぐんでいる。微笑んでるのは彼女だけだ。いつもクラスの中心だった。1年前に告白し、「お互い受験。桜咲いたらもう一度言って」とかわされる。好きだ、と胸で呟いた。返事はない。ずるいぞ、僕に桜は咲いたのに。半月前に病死した、彼女の遺影が涙で霞む。
10年かけて捜し出す。病床の先輩はやせ細り、モテてた高校時代の面影はない。お金を出すから延命治療受けましょう、と囁いた。「お前……遊んで捨てた後輩か」。そうですよ。最初でした。垢抜けたでしょ。あの後、私は心を病んで、今は風俗勤めです。病気なんかで死なせません。私がこの手で殺します。
見舞いには誰も来ない。毒親を捨てた後、高校の後輩を手始めに、女を食い散らかしてきた。30歳前に病で斃れるこんな最期も、クズの俺にふさわしい。「このお金で延命治療受けましょう」。綺麗な女が通帳を差し出した。誰だお前。なぜ俺に? 「16歳で最初を捧げた私のことを、垢抜けさせたの先輩です」
帰り道、制服のカップルとすれ違う。5年前の交際当初、私たちもあんなふうに寄り添った。納得ずくで別れ話をしあった彼が、「懐かしいな」と目を細める。同棲し、慣れ過ぎて、ともに思いやりを欠いてしまった。「もう一度、話そうか」。私たち、と彼の台詞に言葉を返す。もうあの頃みたいに戻れない。
納得し合った別れ話の帰り道、高校生のカップルとすれ違う。ともに好きが溢れそうだ。僕らがつきあい始めたのも、制服の頃だった。5年間を振り返る。デートもキスも初めてだった。いつの間にか互いを大事に思う気持ちが削れていた。隣の彼女が「やっぱり私たち……」と囁く。ああもう一度、話そうか。
「ひでえな」。少し遅れて登校してきたクラスの男子が、いきなり日直欄を拭き消した。「俺たちそういう仲じゃねえのにな」。うんそうだ。多分、友だちのまま中学校を卒業だ。私は結局、勇気を出せない。思わず涙が込み上げる。「泣くなよ。ったく、誰だ。黒板に相合傘を描いたヤツ」。……ごめん私だ。
中学の黒板の日直欄に、相合傘が描かれてる。先に来ていた相方が、赤い顔で見つめてた。俺たち何でもないのにひでえよな、と名前を消す。彼女は涙ぐんでいる。実は密かに惹かれてた。いたずらしたの、どこのどいつだ。「許せないよ……」。ああ許せねえ。「まんざらでもなかったのに、すぐ消すなんて」
「これじゃ浪人だ」。直前模試の結果を眺め、彼の顔が青ざめる。高校の同級生で腐れ縁。文武に秀でた美少女と、同じ大学に行きたいらしい。諦めなよ。高嶺の花だし、何より君は受験に身が入ってない。「お前も似たような点数だろ」。うんそうね。私と君はそっくりだ。片想いの異性に夢中で気もそぞろ。