掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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高校で彼に別れを告げられる。「ずっと好き」と言ってくれてた。その言葉を信じてた。悪いとこ、全部直す。別れたくないよ。「……ごめん。ほかに好きな子ができたんだ」。彼が去り、机に突っ伏し涙を流す。「俺だって、ずっと好き、を信じてたんだ」。彼の前の元カレが、かつての私の言葉を繰り返す。

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彼女に浮気を疑われて「LINE見せて!」と迫られる。「先週、映画行ってたの? 次の休みは買い物なのね」。いやそれ年子の姉貴。ブラコン気味で困ってる。「これ、お姉さんなんだ」。ああ。「……ごめん」。いいよ。浮気じゃないってわかってくれれば。「もっと嫌だよ。私より優先順位が上の姉なんて」

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すねた素振りは悪戯心。「俺が何かしたか?」と戸惑う彼の仕草も可愛い。ね、浮気したでしょ? 「してねえよ」。許すから言ってみなよ。「だからしてねえ」。あのさ、君の浮気のラインはどこにある? 「えっ……スマホ内?」。どゆこと? 「見たんだろ、俺のLINE?」。もしや本当に浮気しているの!?

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湯上りにタオルを巻いて、部屋に兄を呼びに行く。「風呂入るって。それよりもっと恥じらえよ」。三つ上の19歳。私は下から顔を覗き込む。「……メスガキめ」。ガキじゃないよ、結構谷間もあるでしょ? 私、ずっと恋人いないんだ。多分理由は同じだよ。去年知ったの。お兄ちゃん、継母の連れ子だよね?

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妻が涙ぐんでいる。「推し」の歌手の結婚を、ネットニュースで知ったらしい。僕らとは世界が違うよ。お相手も芸能人だろ? 「うん、同い年の女優さん」。スマホを見せられ息を呑む。「どうしたの?」と尋ねる妻に作り笑いを浮かべてみせた。胸が苦しい。忘れられない前カノが、液晶画面で笑っている。

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「推し」の歌手の結婚がネットで報じられる。相手は同い年の女優だそうだ。「泣くなよ。僕らと世界が違うだろ?」。慰める優しい夫は切なげだ。そうだね、これじゃあなたに失礼だ。スマホを眺め、今度こそ番号を消そうと思う。夫には言えてない。歌手が前のカレだということ。ずっと未練があったこと。

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今朝も通学電車に彼女がいた。名前も知らない女子高生だ。俺が座ったシートの前に、お年寄りがやってきた。立ち上がりかけて、隣の同級生に制される。「僕が譲るよ。お前も大変なんだから」。悟られぬよう彼女を見る。惹かれていたけどサヨナラだ。難病が見つかった。俺は今日、高校に休学を届け出る。

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彼を見るたび胸が高鳴る。毎朝の通学電車。痩せた体をシートに預け、物憂げだ。隣には、同じ制服姿の平凡そうな男子がいる。やっぱり彼は格好いい。そう感じたところで声がした。「どうぞ」。シートの前の老人に、男子が席を譲ってる。座ったままの彼の顔から視線をそらし、男子の背中にきゅんとする。

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また書店が廃業する。編集者から耳にした。実家近くだ。幼い頃、家が貧しくいつも立ち読みさせてもらった。あの経験が私を作家に導いた。「売れてますよ、新刊の恋愛小説」と編集者。よく店番していた書店の息子は、10歳上の高校生だった。今さらだけど訪れて、不義理を詫びよう。初恋相手のあの人に。

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廃業まで1週間。家業の本屋を継いだが限界だった。高校時代の10年前、店はまだ子どもたちで賑わった。「……サイン本を」と客に声をかけられる。もう人気作は入ってきません。「いえ、私ので良かったら」。新進気鋭の女性作家だ。話題作10冊とペンを持っている。よく立ち読みしに来た女児に似ている。

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