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会社帰りの居酒屋で、同性の後輩相手に愚痴を吐く。「意外です。サバサバ系の先輩が、恋煩いって」。アラサーだけど私も乙女だ――言いかけて、口がもつれる。「酔い過ぎですって。うち近所だから泊って下さい」。小柄な彼女に肩を抱かれて後ろめたい。黙っているけど百合なんだ。恋しているの貴女だよ。
「肝移植は成功です」と医師が言う。「義妹さんの心移植も」。肝臓を患う前、私は心臓ドナーに登録していた。夫の双子の妹は、心臓病で、私と適合すると判明した。妹を思う夫に向かい、私の死が望みだね、と拗ねたことを後悔する。あれは本当に事故だったのかな。脳死した夫は、全臓器を登録していた。
「死んでほしいって顔してる」。病床で悪戯っぽく妻が笑う。肝臓を患って、末期なのだ。僕は20歳で父母を亡くした。身内の死を願うなんて、あり得ない。「だからこそ、でしょ?」。また微笑んで、妻は毛布を被り、背を向けた。元気な頃、妻は心臓ドナーに登録した。適合する、僕の双子の妹は、心臓病。
夫が若い女と浮気した。すでに家庭は壊れてる。ある夜、見知らぬ若い青年と、ホテルに消える娘も見た。「何?」。出会ったばかりの男に訊かれ、私は黙って首を振る。夫は部下と高級ホテルで逢瀬していた。娘はいくら貰っているのかな。古い宿で服を脱ぐ、年金暮らしの男を眺め、安い自分に泣けてくる。
パパが浮気し、ママとの不仲は深まった。家に居場所を失くした私は、半年前から夜の街で男を誘う。欲に溺れて倫理を失う――そんな男を蔑むことが、パパへの復讐なのだと考えた。客が残したお札を放り、ホテルのベッドでうずくまる。もう人肌が恋しいのだ。憎んだパパの気持ちが知れて、絶望に嗚咽する。
未明に目覚める。後輩と深夜まで残業し、始発を待とうと酒場に入った後の記憶がない。「酷いです……」。ソファで彼女が半べそかいてる。うわコンプラ時代にやらかした。「寝落ちしたからタクシー呼んで、部屋まで肩を貸したのに」。詰んだ、懲戒だ。「私のベッドを占領しつつ、指一本触れないなんて」
残業終わりの深夜2時、先輩と退社する。「タクシー相乗りしていくか」。え、誘ってるんですか? 「馬鹿言え。コンプラ怖くてできねえよ」。苦笑した先輩と、居酒屋で始発を待つ。先輩は一杯飲んで寝落ちした。もうタクシー呼びますよ。コンプラ的に同意取ります。いいですね、とりあえずうちまでで?
船の窓から地球が見えた。本当に母星と似ている。5年前、彼女は独りで探査に訪れた。出会ってすぐに恋に落ち、僕は彼女の船に乗る。「地球で待ってる彼とは別れる。船は亜光速だからもう老人……」。罪に泣く彼女を抱いた。瓜二つだけど違いもあるんだ。僕の命はもう潰える。母星の寿命は地球の半分。
宇宙の旅がそろそろ終わる。5年で第二の地球を見つけ、5年かけて引き返す。亜光速での旅だから、愛を誓って別れた彼は老境だ。星は地球に酷似して、命も文化も存在していた。罪を引き受け、彼に別れを伝えよう。「どうしたの?」。涙を流す私の体を若い男が抱き締める。連れて来た、あの星の住人だ。
「主任、隣のアラサー社員が厳しいです」。バイトに入ったばかりの女子大生が囁いた。「すぐあの人を叱って下さい」。綺麗な瞳を潤ませて、上目遣いに僕を見る。ああ、言っておく。「……今夜、お時間ありますか?」。ごめん、別件。「嘘……私の誘いを断るなんて」。君の言葉を告げないと。家で妻に。