掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)。リンクは固定ツイートご参照。原案の縦読み漫画(studio.booklista.co.jp/series/b88a988…)も配信中。
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教室に忘れたなら、俺の使うか? 高校の帰り道、後輩に手袋を差し出した。もう半年も好きだけど、彼女の気持ちがわからず言い出せない。案の定、手袋を握ったまま俯いてる。しくじった、と取り返そうと伸ばした手を、ぎゅっと彼女に握られた。「……先輩。直接この手を貸してもらっちゃダメですか?」

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冬の高校の帰り道、教室に手袋を忘れたと気がついた。「相変わらずだな」。振り向くと、片想いの先輩が笑ってる。「しもやけだったよな? 俺のでよければどうぞ」。渡された手袋を握り締め、俯く私に「ごめん、抵抗あるか」と頭を掻いてる。……違います。先輩、直接手を貸してもらっちゃダメですか?

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私も彼も少しませた園児だった。卒園日、「離れ離れになるね」と涙ぐみ、仲良しの彼と触れるようなキスをした。あれから9年、高校で彼と再会する。つきあって、最初のキスのあと、「俺は初めてだけど、お前は?」と彼が訊く。こいつ、忘れてるんだ。私はちょっと腹が立ち、「経験済みよ」と舌を出す。

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「ずっと好きだった」。年始に帰郷してきた高校の同級生に打ち明けられる。来年の成人式まで気変わりしなけりゃまた言って。軽薄を装って、彼女のスマホで2人一緒に自撮りした。少し前、悪い病気が見つかった。多分俺は式には出られない。都会に戻り幸せ探せ。ごめんな、俺もずっとお前が好きだった。

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不意打ちで、教え子にキスされた。「先生のピアノが聴きたいです」。晩秋に求められ、高3の彼を音楽室に招き入れた。好意を抱かれていると知った上でのことだから、7歳上の私は共犯だ。なかったことにしてあげる。そう呟き、以来距離を保ってる。卒業までは気づかないで。あの曲の題名は「愛の夢」。

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「浮かない顔ね。高3だし、もう少しで自由登校なのに」。放課後、音楽教師に呼び止められる。黒髪と透けるような白い肌の七つ上。「君の成績なら受験は平気。笑顔で卒業できるよ」。先生、まるで僕をわかっていません。その言い方には傷つきます。高校は出られても、先生からは笑って卒業できません。

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放課後、何度か躊躇い生徒会室の扉を押す。すでに在室していた彼を避け、少し離れた席に座る。同じ役員で交際1年。「珍しい。喧嘩?」。ほかの仲間に驚かれる。ううん、これまでで一番彼を好きでいる。ただ無性に照れ臭く、周囲に悟られぬよう接せられるか自信がないんだ。昨夜、彼と初めて結ばれた。

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「残念だよね」と彼女は言った。同じ20歳のバイト仲間。感染症の拡大で、成人式が中止になった。控えめだけど芯があり、優しい彼女に惹かれてる。本当に残念だ。「さすがリア充。女子の晴れ着姿を見たかったんでしょ?」。彼女がクスクス笑っている。ああ、その通り。誰よりも、きっと綺麗なお前のな。

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同じ大学受験するね――。高3の秋、元カノがそう言った。別れて半年。今では友だちみたいな関係だ。「まだ好きなんでしょうね」。生徒会の後輩がポツリと呟く。どうかな。一緒にいると気は楽だけどね。俯く彼女が唇を噛んでいる。「……私、諦めません」。うん、何を? 「先輩と同じ志望校も、先輩も」

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週末には大学入学共通テスト。今年は一浪の先輩と同時受験だ。「一緒に合格しような」。おそろいのお守りを一つ私に握らせて、先輩が微笑んだ。その優しさに苦しくなる。去年は私が手渡した。「ごめんな、落ちて」。ううん謝るのは私のほう。神様にお願いしたんだ。元カノと同じ大学受かっちゃ嫌だと。

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