掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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1年ぶりに彼女に会う。17歳か。綺麗になったな。南洋で諦めかけ、婚約者を思い出し、死に物狂いで帰ってきた。もしあの時、愛する人がいなければ、今のお前も存在しない。恋しろよ。強く優しくなれるから。「ママ、ひいお爺ちゃんは海軍にいたんだよね?」。お盆にひ孫に目を細め、私は再び天へ還る。

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「結婚しよう」と彼に言われた。彼のバンドが初めて小さな単独ライブを決めた夜だ。無理、と笑い、5年続いた同棲を解消する。優しい君はきっと私を守ることを優先する。でもね、今が一番肝心だよ。君も君の曲も大好きだから、私は枷になりたくない。涙を堪え、私は消える。君が夢の舞台に立つ日まで。

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元カノは右と左をよく間違えた。世間と少しズレていて、だから売れないバンドマンと5年も暮らしてくれたのだろう。単独ライブが決まった夜、求婚し「無理」と笑って僕の許から消えた。喪失感を埋めようと、必死で3年頑張り、今夜夢のホールに立つ。客席に一つだけ、左右逆にペンライトが揺れていた。

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「私と研究どっちが大事?」。泣いた彼女が去っていく。大学院の研究室に連日籠り、寂しい思いをさせてしまった。でもこれは2人の未来のためでもあったんだ。彼女の父は遺伝病。病は男の子にしか発現しない。独りになっても僕は特効薬を研究する。愛するお前が、いつか誰かと育むだろう男児のために。

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元彼が、遺伝病の特効薬を開発したと報じられていた。私と研究どっちが大事? 大学院に進んだ彼を詰って別れ、今の夫と結ばれた。あれから10年。男の子に発症するその病気を、息子は私の父から受け継いだ。「未来のため両方大事」。あの時、彼はそう言った。若さを悔やみ、彼の研究室にメールを送る。

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「手を繋いでるのパパに見られた」。彼女が頭を掻いている。半年前から交際中の同級生。以前、お母さんには挨拶し「私と夫も同じ高2からのつきあいなの」と励まされた。なあ、次はお父さんに会わせてくれない? 「私を溺愛しているよ」。勇気を振るってちゃんと言う。決してこの手を放しません、と。

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若い男と手を繋ぐ、高2の娘を見てしまう。「クラスに彼がいるそうよ」。娘によく似た妻が笑う。胸がざわめき思わず妻の手を握る。「何よ、久々に?」。滑らかだった白い指に浮かんだ皺も、愛おしい。男親は切ないけれど、邪魔しちゃ駄目だな。あいつ、初めて手を繋いだ俺たちと、同い年になったんだ。

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「取引先から電話でした」。職場の後輩が僕の机にメモを置く。以前は妻からかかってきた。5年前の結婚後、妻の依存が酷くなり、私用スマホは切っている。別れ話も出たけれど、僕が優しくなれたから、ここ半年、妻は随分落ち着いた。「19時に私の家で半年記念を」。メモを残した不倫相手にそっと頷く。

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玄関で夫をハグし笑顔で見送る。結婚5年。甘やかな季節はとうに過ぎ、半年前まで別れ話を繰り返した。昼下がり、3駅先のマンションを訪れる。設計士の元彼の、自宅兼仕事場だ。「悪い子だな」。独身の元彼に抱かれながら考える。満たされて、夫に優しくなれる私って、本当に「悪い子」なのだろうか。

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「大学の同級生に誰かいないか?」。父がバイト探しに困ってる。民宿を営む我が家は、夏だけ海の家も営業する。泊まり込みで20日。パパ、高2の従弟はどうかな? 「お! 昔は姉弟みたいにべったりだったな」。うん。今はなかなかイケメンなんだ。私もバイト手伝うよ。だから、娘の恋は大目に見てね。

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