掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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「裸エプロン? 絶対嫌だ」。三つ上の彼女に小突かれる。大学の夏休み、彼女の家でお泊りし、そのままベッドで朝を迎えた。「まあ、朝ごはんは作ってあげるよ」。毛布に潜ってもぞもぞ着替え、隣から出て行った。……そっちも十分エモいです。僕のシャツを緩く羽織り、素足の彼女が台所に立っている。

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大学時代の元カノから5年ぶりにLINEが届く。去年結婚したと噂で聞いた。「会いたい。理由はその時話すから」。いけないと理解しつつ、未練に任せて明日会おう、と返事した。深夜、独居の自宅前まで帰りつく。「元妻は絶対お前に渡さない」。見知らぬ男が僕の胸を刃物で抉る。そうか、離婚してたんだ。

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元彼が忘れられない。気づいた夫は激高し、口論の末に離婚した。元彼は独身だと風の便りに聞いている。大学以来5年ぶりにLINEを送り、「明日会おう」と深夜に返事が返ってきた。翌朝テレビのニュースをぼんやり眺める。中継でよく知る名前が報じられていた。被害者として元彼の、刺殺者として元夫の。

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高3で年子の兄が事故死した。半年前から交際中の彼女の家のすぐ近く。私と寄り添う姿を見られ、誤解を解きに行ったらしい。「……本当にご免なさい」。通夜で初めて会った彼女に、涙ながらに詫びられる。兄はこの子と寝たのかな。私は寝たよ。半年前、お互いに泣きながら「もうやめよう」と誓うまで。

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「誤解だぞ。今から行く」。彼の言葉を遮って、別れよう、と一方的に通話を切った。直後、私の家のすぐそばで、彼は車に跳ねられる。つきあって半年の高3の夏。その日、美少女と寄り添う彼を見てしまう。通夜で私は激しく悔やむ。存在だけは聞いていた、彼の綺麗な妹が、遺族席の一番端で泣いている。

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つきあって半年目、互いに初めて結ばれた。最初はぎこちなかったけど、彼女は最近頬を染め、切ない声をあげている。今日も昼から抱き合って、果てた彼女は眠りについた。愛していると感じつつ、僕は手持無沙汰でテレビを眺める。海でも山でも街でもない。大学2年の夏休みが、ワンルームで過ぎていく。

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ちょっと嫌だ、と私は感じる。今日も昼から彼に抱かれた。確かに良さはわかってきた。求められると嬉しいし、愛する想いもますます募る。「気持ちよかった?」。終わった後、彼に訊かれて小さく頷き、ベッドでそのまま微睡んだ。海でも山でも街でもない。大学2年の夏休みが、ワンルームで過ぎていく。

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あの野郎、と2学期の中2のクラスで幼なじみを睨みつける。自由研究「身近な海辺の生物」かよ。夏休み、勇気を振るって海に誘った。スマホで色々撮ってたの、これが目的だったのか。「デートのつもりだったんだ?」。彼女がにやにや笑ってる。だったらもっと注意しろ。1枚だけ俺のビーサン写ってる。

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「夏休みの自由研究、思い浮かばねえ」。中2の幼なじみが嘆いてる。馬鹿だなあ。興味があること何でもいいのよ。「そうなのか。ならば手助けしてくれねえか?」。嫌だよ。いつも私に頼ってばかりじゃない。「一番興味があるの、お前なんだ」。……絶対提出しないなら、1日ぐらい手伝ってあげようか?

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夫が息を引き取った。老衰だから大往生だ。許嫁だった終戦の夏、南方で彼は消息不明になった。「必ず帰る」。出征前の言葉を信じ、3年待った。戦後に苦労もしたけれど、子にも孫にもひ孫にすらも恵まれた。夏の日に、平和の尊さを噛み締める。もう少し、待っててね。今度は私があなたの許に帰ります。

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