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「主人公の気持ちを選びなさいって、知らねえよ」。同級生の男の子が、現代文で唸っている。大学受験の夏期講習。これ、単に逆説を問う問題だよ。「そうなのか? まどろっこしい」。あのさ、これぐらい、そろそろ読み解けるようになりなさい。今から中高一緒の私が補習します。鈍いあんたが大っ嫌い。
姉の彼の車に乗った。「どっきり? 面白いね!」。昨夜、双子の姉に持ち掛けて、デートを入れ替わることにした。バレてない。そう思った瞬間に、大型ダンプが対向車線をはみ出してきた。咄嗟に死を覚悟する。これは彼を騙した罪だ。お姉ちゃんにも嘘をついた。ごめんね、ずっと彼のことが好きでした。
病床で彼が目を覚ます。「良かった。お前無事だったか……」。2日前のデート中、彼の車に大型ダンプが突っ込んだ。2人とも救急車で搬送された。私はぼろぼろ涙を流す。「どこか痛む?」。ううん、私はかすり傷一つない。小さないたずらのつもりだった。助手席で即死したの、一卵性双生児の妹なんだ。
中高一緒の彼のことを、いつの間にか意識していた。じゃれあって、憎まれ口を叩き合い、大事な本音を打ち明けられない。夏休み、渋る彼を肝試しに誘い出す。本当に試したいのは臆病な自分自身の胆力だ。ちゃんと告白できるかな……。「誘っておいて震えるなよ」。夜の神社で、笑った彼に手を握られる。
「肝試し、行こうよ」。高校の同級生に誘われた。行かねえよ、と俺は答える。「怖いの? 女子の私が行こうっていうのに、臆病だなあ」。ああ、怖い。中高一緒の腐れ縁。だからこそ、怯えてる。夏の夜の神社に2人きり。失いたくないお前の気持ちがわからぬまま、流されて、迂闊に告ってしまいそうで。
彼女とは大学で波長が合って2年半。時々互いの家で夜を過ごす。「お風呂沸いた。一緒に入る?」。俺たちそういう関係だったっけ? 「冗談よ」。その笑顔に切なくなる。卓上の古い写真。綺麗な少女を制服姿の彼女が見ている。お互いに黙ってるけど、俺たちは似た者同士だ。2人とも同性しか愛せない。
今夜も彼の家に遊びに行く。大学で知り合い2年半。波長は合うのに、一度も友だちの線を踏み越えない。私、一応女だけど、そういう気分にならないの? 「ああ、全く」。笑ってシャワーを浴びてる彼の、スマホが響く。「お前を好きだ」。画面に浮かぶ誰かのLINEに切なくなる。同性なんだ、彼の志向は。
すぐ高校の後輩だと気がついた。Twitterの匿名アカウント。7年前の野球部時代、彼女に告られ拒んでしまった。「夫と死別。シンママだけど泣いてられない」。ひたむきで健気なキャラはそのままだ。あの頃、僕は沢山励まされた。伝わるかな。負けるなよ。「背番号3」は「女子マネ2号」にリプを書く。
先輩がTwitterで弱音を吐いてる。彼女とも、仕事も上手くいかないらしい。7年前、高校野球の準決勝で敗れた夜、告白し、誠実に拒まれた。だから今でも記憶の中で輝いてる。Twitterは私も彼も匿名だ。「幻滅させるな。頑張って」。伝わるかなと思いつつ「女子マネ2号」は「背番号3」にエールを送る。
3年前、心臓病で入院していた。「病気治して、一つになろうよ」。照れながら囁いた、当時の彼女が忘れられない。高2の夏、思わぬ事故で彼女の方が先に逝く。直後、心臓ドナーが現れた。誰かは規則で教えてくれない。一つになるって約束しただろ……。涙ぐむ僕をなだめるように、胸が優しく鼓動する。