掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのプロフィール画像

掌編小説(140字)@単行本『ぼくと初音の夏休み』『ごめん。私、頑張れなかった。』発売さんのイラストまとめ


本業は別分野の物書きです。140字小説集『ごめん。私、頑張れなかった。』(リベラル社)、長編『ぼくと初音の夏休み』(扶桑社)、縦読み漫画(原案)『とある溺愛のカタチ~掌編小説アンソロジー~』(ブックリスタスタジオWebほか各種サイトで配信)。リンクは固定ツイートご参照。創作系のお仕事はDM下さい。
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結婚で転居する。本棚から恋愛小説が見つかった。学生時代、交際中の恋人に借り、返し損ねた一冊だ。思わず引っ越し作業の手が止まる。手伝いにきた新妻が、怒ったように僕を見た。ごめん、過去を振り返り。「もういい……」。本当にごめん。「いいから作業続けなさい。私の借りパクしたのは許すから」

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高校への通学電車に並んで座る。起こしてね、と私は言って、幼なじみの彼にもたれた。あんた、こんなに肩幅広かったっけ? シャンプーもトニックにしたんだね。「おい起きろ」。彼にそっと小突かれる。駅まではまだだけど、そうするよ。全く不覚だ。あんたに異性を感じてしまい、胸が高鳴り眠れない。

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「着いたら起こして」。並んで座った通学電車で、幼なじみが舟をこぐ。小中高と一緒だから、彼女は多分、僕を異性と感じていない。肩にもたれたぬくもりと、二つ開けた胸のボタン。おい起きろ、と彼女を小突く。「え、もう駅?」。……まだだけど、このままじゃ、乗り過ごしたい誘惑に負けそうなんだ。

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彼女が僕を必死で励ます。高2の夏、野球部の大会で負けた後、僕は彼女に打ち明けた。「来年は必ず勝ってね。私も絶対応援する」。吹奏楽部の彼女は言った。つきあってまだ半年。ごめんな。頷いたのに、約束を果たせない。3日前、僕はダンプにはねられた。病床の僕の手を握る、彼女の姿が霞んでいく。

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3回戦で負けた夜、野球部の同級生に告白された。「高3の来年は必ず勝つ。応援すると約束してくれ」。吹奏楽部の私は頷き、交際が始まった。あれから1年。涙を拭い楽器を握る。君は嘘つきだったけど、私は約束守ります。マウンドで別の男子がボールを握る。恋人が事故死して、最初で最後の夏がきた。

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親友のお兄ちゃんが彼になる。高2の私の一つ上。「最近、妹の元気がない。失恋でもしたのかな?」。デート帰りに彼が呟く。妹の話、今日だけで7回目です。親友の想いには気づいてました。自覚してないようですが、片想いじゃないんですね……。好きな人が、想い想われする人と、同じ家に帰っていく。

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「元気ねえな。失恋か?」。年子の兄貴にからかわれる。余計なお世話だ。部屋を出て行け。17歳の妹に構う暇があるのなら、束縛系で勘の鋭い彼女とLINEしなよ。「親友で同級生のお前にも同じなんだ」。そうね。だから最近避けられてる。彼女は恐らく気づいている。許されない私の片想いと、失恋相手に。

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女の子と初めて寝た。大学の同級生。「私も男の人と交際するの初めてなんだ」。囁く彼女に全身を溶かされる。「気持ちよさそうで、少し意地悪しちゃったよ」と彼女が笑う。本当に僕が最初なのかな……。過去に3人経験した。けれど今はこの子が大好きだ。僕は彼女に気づかされる。自分が両性愛者だと。

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大学の同級生の彼と寝た。「……本当に男とつきあうの、初めてなの?」と尋ねられる。嘘じゃない。なぜそんなふうに感じるの? 「……上手かった」。はにかんで、それには答えず毛布をかぶる。これまで2人と経験した。彼に会い、初めて自分自身を深く知る。タチだったけど、私は確かに異性も愛せる。

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高校の朝の教室。腐れ縁の女子が焦ってる。「古文教えて!」。彼女が教科書持ってきた。「『かぎりなくかなしと思ひて』って、何でこの人、悲しいの?」。ああ、俺と同じ心境だ。お前を「かなし」と思ってる。「え、宿題忘れたアホだから?」。自分で調べろ。「かなし」はな、「愛し」って書くんだよ。

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